審神者はじめました。【男主】 (ページ2)

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教訓ページ2

【人生は理不尽】

二十年生きてきて、やっと気づいた事だ。
違う、と言うのもいるかもしれない。
だが俺の価値観からすれば、人生なんか理不尽なものでしかない。
どんなに俺なんかが足掻こうとも、必然を偶然にすることはできないのだ。

はぁ、と一つため息を交えつつ、立派な机の上にある山から、一枚の書類を手にする。
そのまま慣れたように足を運び、ふかふかの黒いソファに、どか、と腰かけ、目の前にあるコーヒーを啜る。
豊満な香りを放つこれは、俺が理不尽を味わった証拠であるというのに。

『……美味い』

感想とは裏腹に、苦々しい顔になってしまう顔。
だが、これは俺の性格が元々ひねくれているからという訳ではない…いや、多少はひねくれている。
だが、それをさらに助長させる要因となったのは、いわずもがな先日のある一件のせいだろう。

『……理不尽すぎるよな、マジで』

脳裏をよぎるのはほんの数日前の出来事だった。

＊

「気ィつけてな！」
『おー、』
「シャキッとせんか！」
『いッ……わかってるっつの！』

玄関を出ようとすると後ろからかけられる快活な声ー…じいちゃんだ。
ゆるりと顔を向け答えると、べし、と容赦ない一発を頭にもらった。
俺が批難の目を向けるにもかかわらず、ふん、と口を尖らせるじいちゃん。

別にやる気がないわけじゃない……ただ。

『本当に、いいのか？』
「儂も孫に心配されるほど落ちぶれとらん！」
『……そーですか、まぁ手紙でも出すから……って読める？俺なしで』
「当たり前じゃい！……さっさと行け」

今日俺は、長年暮らしてきたこの家を離れる。
じいちゃんと二人で暮らしてきた、大切な家。
両親を早くに失くした俺を育ててくれたのは、唯一の血縁であるじいちゃんだった。
皺だらけになったその手に何度支えられたことだろう。

俺もじいちゃんも口は悪いが、きっと内心は寂しさでいっぱいだった。
それを押し殺して悪態をついて、決して不安がらせない。
きっと相手を大切に思うからこそ。

はいはい、といつもの調子で戸に手をかける。
そして。

『行ってきます』

新たな世界へと足を踏み出したのだった。
ここからがもう理不尽の始まりだった。
この時、もしじいちゃんとの生活を続けるという選択肢があれば俺はこうならなくて済んだかも。
今更遅いけれど。
そう思わずにはいられない。
だが、この時の俺は夢へと向かう期待でいっぱいで目を輝かせていた。