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「あれ…」
迎えに来てくれた車に乗り込んで帰っていた途中。
信号待ちで何となく見た窓の外、
建物の陰に黒田くんの後ろ姿を見つけた。
こんなところでどうしたんだろう、と思っていると
彼の目がまた切なさを帯びていることに気付く。
その碧い視線の先にいたのは、女の人だった。
「っ…」
黒田くんの瞳が揺れて、
カバンを持つ手の力が強まる。
女の人の隣には、その人と同じ歳くらいの
男の人が立っていた。
笑いあう姿は、私たちにはない
大人びた雰囲気をまとっている。
そんな様子を彼は無理やり自分の視界から外して、
どこかへと走っていった。
その瞬間、何かが彼のカバンから落ちる。
「…ごめん、青木。少し止まって」
「あ、はい！」
道の端に車を着けてもらって、走ってそこに向かう。
落ちたものを拾い上げれば
それは黒田くんの学生証だった。
追いかけようにももうこの辺りにはいないし
この辺りを歩くこともないから土地勘もない。
仕方なく自分のカバンにしまって、
明日渡そうと決めた。
「黒田くん、」
「ん…？」
次の日、結局彼に話しかけることが
できたのは放課後だった。
まだ、ほかの生徒もいる中で彼に話しかけるなんて
正直怖かったから、顔が強ばっているかもしれない。
女の子たちの視線が、ちくちく刺さった。
けど、彼は他の人と話してたり、
教室に居なかったりと
なかなかタイミングが掴めなくて
人が少なくなる時間なんて気にしていられない。
「これ、落とし物…」
「っ…これ！！」
私が拾った学生証の入ったケースを差し出すと
彼が勢いよく立ち上がる。
そして、飛びつくように学生証を手に取った。
よかったぁと言いながら微笑む彼の横顔は
初めて見るような穏やかさをまとう。
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作者名：むう
| 作成日時：2021年1月16日 20時
