絵画が一枚。 ページ3
*
その日は丁度暇だったから、
俺は久しぶりに美術館に行くことにした。
前に一度行った時、すごく俺の好みの絵があって。
それからまたもう一度来たいと思っていた。
美術館の中は、しいんと静まり返っている。
人はそこまでいなかったけれど、
俺はその雰囲気が好きだ。
ぼーっと絵を眺める。
筆遣いも、細やかな色の配置も、
惚れ惚れしてしまうほど、素晴らしいものばかり。
本当は、キヨやヒラやこーすけも誘ったが、
案の定『興味ないからいいや』の一点張り。
勿体ない奴らだ。
しばらく絵を眺めながら歩くと、
俺の一番好きな絵に辿り着いた。
前来た時には誰もいなかったのに、
今日は先客がいた。
毛先がゆるくカールしたセミロングの髪。
真っ白いワイシャツにはリボンタイがついていて、
膝下まである深緑のスカートを履いている。
その横顔は釘付けになるほど美しく。
実際、俺も思わず見入ってしまった。
少し遠くから見ていても分かるほどの美人だが、
どこか儚げで哀しげな面持ちにも見えた。
それこそ、『絵になる』とはこの事だろう。
──いや、待て待て。
俺の今日の目的はあの人じゃないだろう。
俺はその女性を横目に、ゆっくりと、
その絵に近付いた。
相変わらず綺麗な絵だ。
繊細で、美しい。
筆の動きに無駄はなく、洗練されている。
色合いも文句なしに美しいもので、
俺にもこんな絵が描けたらな、と思った。
「……お好きなんですか、この絵」
あまりに長い時間見ていたのだろうか。
突然隣から透き通った声が飛び込んできて、
俺はハッとした。
「へぁっ？は、はいっ……」
その透き通った声の主は例の女性だった。
不思議そうに俺を見上げている。
それにしてもどうしよう。
なんであんなに素っ頓狂な声が出たんだ……
今更ながら恥ずかしい。
「ふふ、そうなんですね。私もですよ」
彼女は優しく微笑んで、そう言った。
その笑顔に、無自覚に鼓動が早くなる。
「す、すごく素敵ですよね。この絵……」
「ええ。ですが、この絵の魅力が分かるとは……
もしかしてお兄さん、美大生だったりします？」
再び絵に視線を戻して彼女が言った。
確かにこの絵は少し個性があって芸術的だろう。
だがそこがいいと言うのにわかってくれる人はそう多くない。
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作者名：緋奈香 | 作成日時：2019年9月8日 20時
