お隣さん、八日目。 ページ10
「もう、なんで分かるの……」
心を読んだかどうかは知らないけど、自分がそんなわかりやすい人間だったことに絶望した。
私の目指すクールビューティーとはあまりにも掛け離れている。
「だってAちゃん顔に出てるんだもん。見たらすぐに分かるよ」
やっぱそうか……と頭を抱えると、突然ポンポンと頭を撫でられた。
「でも、それくらい表情豊かな子の方が、俺は可愛いと思うよ?」
その一言で、比喩表現とかじゃなくマジで顔から火が出たかと思った。そのくらい顔が熱くなったし、きっと顔も真っ赤だ。
「ふふ、Aちゃん顔真っ赤」
「誰のせいだと思ってんのよ……」
「誰のせいだろうね?」
無自覚なのか、はたまた計算済みなのか。
後者なら、彼は策士といえる。
私からすれば後者だと思うが。
「フジ君のせいだよ!もう遅いから帰って寝なきゃなのに、キミのせいで寝れなくなっちゃうよ!」
机の上に出しっぱなしだったタッパーを重ねて片付けた。荷物は何も持って来ていない。それこそスマホくらいしか。
「えー俺のせいなの?俺から言わせてもらえば、Aちゃんがそんなに可愛いのが悪いと思うんだけど?」
「なっ……」
「なーんてね。ごめん、可愛いからついからかいたくなっちゃって。そっか、もう遅いもんね。水とか飲んで休めばすぐ眠くなるよ」
何だこの人、天然タラシか?恐ろしいな。
『そうだね』と返して帰ろうとすると、手首を掴まれ耳元で囁かれた。
「それとも、Aちゃんが寝付くまで、俺が添い寝しててあげよっか?」
「ばっ……かじゃないの……」
口調とは裏腹に、どんどん顔が紅潮していくのが分かる。今の状況だとそれは残酷でしかない。
フジ君は『冗談だよ』と微笑む。
「ま、寝れなかったらいつでも頼ってきていいからね?それじゃあね。おやすみ、Aちゃん」
「……ありがと。おやすみ、フジ君」
手を振る彼に、私も手を小さく振り返して、タッパーを抱えて部屋に戻った。
ほんっと、あの人といたら心臓に悪い。
胸に手を当てれば、まだ鼓動が鳴り響いているのがわかった。
私の新しい隣人は謎が多い。
引越し初日に不審者スタイルで挨拶に来るし。
でも、すぐに人の心掴んじゃって。
認めたくないけれど、彼ともっと仲良くなりたいと思ってる。
彼のこと、もっと知りたいと思ってる。
「……毒されちゃったかなぁ」
誰もいない部屋に呟いた独り言は、風に乗って空に消えた。
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作者名:緋奈香 | 作成日時:2019年8月13日 6時