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お隣さん、二十六日目。 ページ29

「でも、みんなありがとう。私初対面なのに」


「は?」



感慨深い雰囲気の中、噛み締めるように言えば、その雰囲気はキヨの柄の悪い返事によって秒でぶち壊された。



「は?って何よ」



多少の苛立ちも込めて返せば、キヨからは思いもよらぬ言葉が返ってきた。



「だってお前、フジの友達だろ?俺らもフジの友達。だから俺らとお前も友達」



ドヤ顔で言うキヨに思わず苦笑した。
何そのガバガバ理論。
でもキヨらしいと言えばキヨらしい。



「その理論だと、結構前から私達友達だったことになるよ?」



笑って返せば、今度は向こうで話し合いらしきものをしていたヒラ君がにっこり笑った。



「そうじゃない?例えるなら、オフ会みたいな感じで、会ったことの無い友達と初めて会った、みたいな」



ヒラ君が言うと、後から戻ってきたこーちゃんもそれに賛同するように頷いた。



「確かにな。だって初対面とは思えないほど仲良くなったしな、俺ら」



そう言われれば、そうかも。
こーちゃんの言う通り、初対面ってことを忘れるくらい仲良くなった。
これも運命なのかな。そう考えるとこの出会いがすごく希少で壮大なものに思えてくる。



「そっか。じゃあ私はキヨ達とはずっと前から友達だったんだね」


「そーゆー事」



キヨが頭の後ろで手を組んでニカッと笑う。
私にはこんなにも素敵な友達がいたんだ。
そう思うと、仕事が辛いだの何だのって全て忘れてリセット出来る気がした。



「さぁってと!俺らは買い出し行ってくるから、主役のお二人さんは家から出るんじゃねぇぞ!」



こーちゃんが手を叩き、部屋から出ていく。
キヨもヒラ君も一緒に出て行き、リビングに残されたのは私とフジ君だけだった。



何処か話しづらい雰囲気が流れ、お互い沈黙が続いていた。暫くして、フジ君が口火を切った。



「……Aちゃん」


「ん?」


「なんかおかしいかもしれないけど、さ。
俺の隣人でいてくれてありがとう」



すぐには意味が理解出来ず首を傾げると、フジ君は続けた。



「だって、Aちゃんが隣人だったおかげで出会えたんだもん。だから俺はこの出会いに感謝してる」


「……それ言ったら、私も。フジ君、私の隣に引っ越してきてくれてありがとう」



彼が私の隣に越してくる確率はきっと何十万分の一、いやそれ以上に低いかもしれない。それこそ気が遠くなるほどに。



この人と出会えたのは奇跡なんだ。
神様、本当に本当にありがとう。

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作者名:緋奈香 | 作成日時:2019年8月13日 6時

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