検索窓
今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:81,230 hit

お隣さん、三十八日目。 ページ41

その日はたまたま定時に帰れたので、フジ君を訪ねてもいいかもしれないと、心の奥底で思った。
最も、思っただけだけど。



でも、このまんまじゃいつまでも気まずいままだ。
どっちかが動かないといけない。
連絡くれたのは向こうだし、今度はこちらから出向かないとという意味の無い使命感を胸に、私は意を決して彼の部屋の呼び鈴を鳴らした。



暫くして、『はーい』という返事と共にドアが開いた。
目の前のフジ君がびっくりしたように私を見ている。



「……Aちゃん」


「フジ君。……単刀直入に聞きます。千夜ちゃんとは、別に何も無いんだよね?」


「……多分長くなるから、入って」



フジ君は、珍しく無愛想に言い放って、ドアを少し大きく開けた。
仮にも浮気疑惑のある彼氏の家に上がり込むあたり、私ももう末期かもしれない。



「……お邪魔します」


「座って」



フジ君の部屋は、前と変わらない。
引っ越してきてから結構経つけど、綺麗なままだ。
この人は几帳面なんだろうな。



「改めて聞くけど、千夜ちゃんとは何も無いんだよね?」


「Aちゃん。落ち着いて、聞いて」



いつにも増して冷静で、どこか冷たい声音に息を呑んだ。
今にも冷や汗が垂れてきそうなくらい、私の体は緊張で強ばっている。



「千夜ちゃんはね、俺の……
『元カノ』なんだ」



その瞬間、鈍器で強く殴られたような衝撃を感じた。勿論、誰にもそんな事はされてないけど。
そっか。千夜ちゃんは元カノだったんだ。



なんだか吹っ切れた気がして。
重い女だと思われてもいいと、私は一切合切、全て吐き出すことにした。



「そうなんだ。寄り戻したかったなら言ってくれればよかったのに。千夜ちゃんの方が可愛いもんね。優しいもんね。私なんかお荷物でしょう?」



一番言いたくなかったし、認めたくなかった。
ここでフジ君が頷いたら、私はこの場で壊れてしまうことが確信出来る。



「……ほんっとにお前って馬鹿みてぇ」



いつにも増して乱暴な口調で答えられた。
馬鹿とでも何とでも言えばいい。
千夜ちゃんのとこに戻りたいなら戻ればいい。



「私は……幸せになって欲しいだけなの。フジ君に……」



気付けば涙が溢れ出していた。
泣くつもりなんてなかったのに。
ダムが壊れたように、とめどなく溢れ出す。
拭っても拭っても意味をなさない。



「そっか。なら、俺と一緒にいてよ」



普段の優しい声音が頭上から降ってきて、
思わず顔を上げた。

お隣さん、三十九日目。→←お隣さん、三十七日目。



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (93 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
123人がお気に入り
設定タグ:実況者 , フジ , 最終兵器俺達
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:緋奈香 | 作成日時:2019年8月13日 6時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。