蝶よ花よと美しく２ (ページ11)

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『……あらんくん、
…返事しなくていいから、聞いて欲しいな、』

彼女の優しい声が耳に届くと

俺の涙腺を余計に擽った。

『…わたしね、小さい頃のあらんくん、
よく覚えてるんだ。わたしより小さくて…
すっごく、可愛かった。

いっつも、書斎にいる君が、可哀想で

１度だけね、お庭にでたの。一緒に。

…そしたら、急にあらんくんが走り出して
道路に出たの。……目の前に蝶が飛んでた。』

たしか、アゲハチョウだった。

捕まえて、お母さんに見せたら
きっと喜ぶだろうなんて、思ってたんだ。

次、目が覚めた時に見えたのは

母の泣き顔だった。

『…あらんくんのお母さんは君が退院するのと
同時に、この家を出ていった。

……だからね、君のお母さんの居所は
誰も、知らないんだ。…ごめんね、』

忘れてたわけじゃなかった。

記憶を自ら捨てたわけじゃなかった。

その事実を知っただけで
自己嫌悪に陥ることは、もうなくなるだろう。

「……教えてくれて、ありがとう」

『…わたしの、せいで、っ、ごめんね……』

静かに涙を流す彼女が、愛おしかった。

頬に触れると、彼女は肩を震わせ
本能の部分で俺を拒絶した。

あぁ、もう、だめなのか。

彼女を愛すことも

体に触れることも

繋がりたいと思うことさえも

もう、終わりにしなきゃいけないのか。

「……A、あいしてるよ」

どうか、そんな哀しい顔で見つめないで。

同じ血が流れてる俺らは
きっと前世から結ばれない運命だったんだよ。

『……あらんくんを、
っ、…好きにならなければよかった』

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