蝶よ花よと美しく (ページ27)

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店の前に止められたリムジンに

肩を押され乗り込む。

黒塗りの車と
スーツ姿の数人の男達に怪訝さが治まらない。

「…惚れてん？あいつに」

「………は、……」

「Aに、惚れてんか、って。
…まぁ、じゃなきゃあんな顔しいひんか。」

「……あんた誰？」

話をそらす俺に一瞬眉を顰めるが
また感情のないような顔をした。

「Aは、俺の婚約者」

「っえ、まじ…？」

「嘘」

「………、」

明らかに俺より若いこいつ。
無性に殴りつけたくなった。

「弟や、ただの。」

「……弟がわざわざなんで、」

「…あいつがクソ姉貴だから」

ふいっと彼は窓の外を眺めた。

あぁ、こいつも。
可哀想な奴なんだろうなって。

視線を窓の外に向けると

ネオンの光がやけに眩しかった。

彼に促されて車を降りると

黒光りする大きなビル。

「あー…もしかしてさ、」

「気付くのおっそ。はよし。」

ちらりと目線だけよこした彼は
どんどん前に進んでいく。

１番上の１番奥の部屋の前まで来た時
自分はとんでもないことをしたのかもしれないと思った。

「失礼します、」

「……。」

俺は俯いて、何かを恐れていたが
それは起こらなかった。

目の前の小さな彼は
舌打ちをして、逆戻りしていく。

「え、ちょっ…」

「あのクソジジィいないわ、
帰ってくるまで、俺の部屋や。最悪。」

最悪なのは、俺の方だ。

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