きゅんとしたら負け。

部長 ページ9

「おいA、ちょっといいか」
「うん？」


部活中。部長の大樹くんに呼び出された。

私たち陸上部は、今週末の大きな大会に向けて、いつも以上に練習に励んでいる。

だけど、私はよりによって女の子の日で。

大会の練習に参加したいのに、あちこち痛みが走る。

私と大樹くんは、同じ短距離。

集中出来てないこと、怒られるのかな。


「……タイム、急に落ちてる」
「……うん。」
「お前ならもっと走れるよな」
「ごめん。次は頑張るから」
「何度走っても、タイムは変わってない。」
「……ごめん。」


確かに、何度走ってもタイムは縮まらない。

縮まらないどころか、更に落ちてしまっている。
理由なんて、男子に言えるはずなくて、私は泣きそうになった。

もう嫌だ、迷惑かかってるよ……


「そこで、俺は考えたんだ」
「……え？」
「こっち。」


大樹くんは、コンクリートの階段に腰掛け、手招きをした。



「ごめん、何度も走らせて。」



顔を横目で見てみると、悔しそうな顔。

わかってくれて、何も言わずに私の頭に手を置いた。


その安心感で、目の奥がじわりと熱くなった。



「今日はここで休め。

元気はあるなら、俺のフォーム、見ててよ」





軽やかに走るその姿は、風のよう。

この風に乗って、私のきゅんとした胸まで奪われてしまいそうで





(……大樹くんが大会で結果を出せますように。)





そんな思いも、一緒に。






◇
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