一(続きです) ページ1
手を引かれて走っていること数分。
私はまだ微かに震えていた。
「土方君」
先程同様、返事は無い。
「土方君はなんでここが分かったの?」
私達は別々に行動していた。
それにさっきまでいた人気の無い路地裏を通っても、彼はきっと気付かないはずだ。
「お前、総悟を置いていっただろ」
「っ!!総悟くんは!?」
「結局どっちが聞きてぇんだよ」
「ご、ごめん。続けて...」
彼はいつもの口調で話を続けた。
何故かそれがすごく安心した。
「総悟が腹抱えて蹲ってたから話を聞いたらAが路地裏に連れていかれたって言うから分かったんだよ」
「ありがとう...」
すると彼は何か気付いたのか、さっきまで走っていた足を止めた。
「震え、止まったな」
「気づいてたの...?」
「あたりめぇだろうが、手繋いでんだから」
土方君の最後の一言に心臓が大きく跳ねた。
顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。
「おい、どうした」
やはり彼の鈍感さは消えてなかった。
またそれも一安心で。
安心さに涙が頬に伝った。
「それより...すまねぇな。怒らせちまったか?」
「ううん、怒ってなんかない...」
「なら良かったが...」
土方君を抱き締めたくてたまらなかったが、なんだか悪い気がして足を退いた。
すると土方君が1歩足を出し、私を抱き締めた。
「無事で良かったよ」
その一言で、気が抜けたように一気に涙が出てきた。
流石に土方君もびっくりしたのか、少し焦っていたが直ぐに優しい笑顔に戻った。
「泣くなよ...」
「だっでぁぁ〜びじがぁくっぁぁ」
「なんて言ってるか分かんねぇ」
そう言って抱き締めたまま私の頭を優しく叩いた。
「帰るぞ」
そう言って彼は離れると、私の手を引いて歩き出した。
*
「本当にご迷惑おかけしました...」
夜ご飯は旅館で食べる事になり、今は皆に謝罪をしている。
勿論私が居なくなったのも直ぐに皆に広まり、探させてしまった。
すると、少し顔が赤くなった近藤さんが口を開いた。
「大丈夫だ!Aちゃんにはトシが居るだろ?」
「そ、そんな!土方君に失礼です...」
土方君はムスッとして近藤さんの方を見ていた。
まるで親の外食に付き合っている暇そうな子供の様だ。
ガヤガヤした宴のような食事が終わると、旅館の人たちがお皿を取りに来た。
「何これ、神...」
そう、いつも片付けは私なので私以外がやってくれるなんて神でしかないのだ。
(文字数)
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作者名:唐辛子の民 | 作成日時:2018年4月8日 19時