【QK】胡蝶の夢 (ページ8)

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ペラペラの紙1枚。ページ8

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「愛してる」

彼は言う。
家に帰ってから、2人きりのオフィス、ベッドの上。
どんな些細な時も、彼はそういうのだ。

「私も好きだよ、拳くん」

始まりは、拳くんからのアタックだった。
少しだけパズルで拳くんに張り合える、そんなくらいの取り柄しかない私に、彼は『好きだ』と言った。何故、彼が私を好きになったのか今でも謎なのだが(拳くんが教えてくれないというのもある)、確かにそう言ったのだ。
拳くんは、巷で有名で、聡明で、凄い人で、そしてただの同僚だと思っていたので、もちろん断った。
彼は言った。

『好きな人いる？』

隠す必要も無かったから私は正直に答えた。

『いないよ』

屈託なく彼は笑う。

『なら、付き合ってから好きになってくれたらいいから。だから、1ヶ月、お試しで付き合わない？』

私には分からなかった。分からなかったから、いや、何故かそれが正解な気がしたから、コクリと頷いた。彼は喜ぶ。

『じゃあ、ははっ、今日からAは彼女だ』

あまりにも嬉しそうだから、何故かつられて笑ってしまった。確か1年ほど前の話。

私も結局拳くんを男の人として意識してしまって、それでつまるところ現在に至るまで普通にお付き合いさせてもらっている。
およそ1年、彼と付き合って分かったことがある。

「大好きだよ」

彼は言う。それは、何度も何度も。
世の中の女の子たちが彼氏に言われないだなんて、そんな子には分けてあげたいくらいに、彼は何度も言うのだ。
照れることもなく、まるで作業かのように。
嬉しい、とは思う。いや、実際嬉しい。
すごく嬉しい。
だけど、何かが違う。
つまる所、こうだ。

きっと、私には『愛』が分からない。

「愛してるよ」

彼がそういう度に『愛』がなんなのか分からなくなっていく。
愛ってなに？
好きと何が違うの？
拳くん、ねぇ、貰うばかりで全然何もわからないよ。

「私も好きだよ」

ねぇ、拳くん。
私の返答に、眉にシワを寄せ悲しそうな顔してるの、気づいてるよ。
『愛』って何？
ねぇ、教えてよ。
君なら知ってるでしょう？

拳くん、拳くん、拳くん…