ネコ 1 ページ9
.
『Aさん、何してるんですかィ』
『おー、沖田』
手をこまねくように曲げ、沖田を自分のところへと近寄らせる。四時間目が終わり、昼休みに差し掛かった今、Aは体育館の裏で草むらの傍にしゃがんでいた。
沖田はAの元へ近寄り、Aの手元を見て、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声を出す。
『猫』
『そう、猫ちゃん』
黒い毛並みに、顔は八の文字を表すようにそこだけ白くなっている。所謂ハチワレというやつだ。
見て見て、と、Aは猫の前足の下に両手を入れて持ち上げた。猫はされるがままで。「にゃー」と高く伸ばした声で鳴く。
『首輪はしてないけど、人馴れしてるから飼い猫か、誰かがお世話してるのかな』
『そうみたいですね』
猫の扱いに慣れてる沖田は、怖がらせないために手の甲を猫に近付ける。そして猫の顎を擦るように撫でた。
猫は気持ちよさそうに、ゴロゴロと喉を鳴らす。
『さすが沖田様。猫の扱いもお得意ですか』
『人をタラシみたいに言わねーでくだせェ』
ふっと、真夏の太陽みたいに笑ったAは、持っていたお弁当箱からソーセージを取り出す。それを小さくちぎり、猫の口元へと運んだ。
猫は匂いを嗅いで確かめた後、夢中でがっつくように食べる。
『可愛い』
『Aさんも可愛い』
『はいはい』
いつもそう言ってAは流すが、沖田は本心だった。
しかしAは沖田の胸の内など素知らぬ顔で、猫の腹を撫で回す。
『沖田はさー、好きな子とかいないの?』
『Aさんが好きなんで』
『はいはい、そのジョークはもういいから』
Aの言葉に腹が立った沖田は、彼女を草むらの上に押し倒す。突然のことに驚いた猫は草むらの陰に飛び込むように逃げ出した。
Aは目をパチクリと見開いて、自分の身体に影を作る沖田を見上げる。
『本気です』
このまま唇でも奪ってやろうか。そう企んだ沖田は、放心しているAの口唇に顔を傾けながら近づけた。
Aは慌てて目を瞑る。しかし沖田の薄い唇が触れたのは、ゴツいが肌は白い手の平で。その持ち主の名前を、沖田は呟く。
.
83人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アリス(プロフ) - 面白かったです! (2022年4月2日 8時) (レス) @page10 id: 5459160ee1 (このIDを非表示/違反報告)
RIO - めっちゃ続き気になります!更新待ってます!! (2022年3月29日 7時) (レス) @page10 id: 759836d8d0 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - すごく面白かったので、これからも頑張ってください…! (2022年3月24日 18時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
みっ! - ハルさん!ずーっと前から拝見させていただいていて、ふと戻ってきたら銀魂また書いて下さっていて嬉しかったです!ハルさんのペースでがんばってください!楽しみに待ってます (2022年3月14日 1時) (レス) id: 54732a6668 (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - ハルさんの紡ぐ言葉が大好きで、また今回も素晴らしい作品を〜と噛み締めて読んでます!✨ (2022年3月2日 21時) (レス) id: 6c0400a92a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハル | 作成日時:2022年2月19日 18時