episode 30 氷とアルコールのジレンマ ページ32
『でも、私に好意を持ってくれてるのは嬉しいよ。かなりの物好きだとは思うけどね。』
そう言って微笑むAの表情には、確かに偽りが無かった。
「......意外と、ずるい人ですね。貴女。」
首をかしげるAに、何でもありませんと首を振る。
『じゃあそろそろ。ああ、"黒羽快斗"の時は普通に話してくれて構わないよ。私もそうするから。』
手をひらひらと振りながら歩き出そうとするA。
「待って」
その手を掴み、自分の胸に引き寄せる。Aから彼の顔は見えない。
「____言っとくけど俺、超諦め悪いから。」
吐息混じりの低い声。
それだけ言うとAの耳に軽くキスをする。
Aが驚いて振り向くと、先程の印象とは変わって彼らしい笑顔を見せた。
「またな、A。」
「あ……。」
夕暮れの帰路を歩いていると、自動販売機でコーヒーを買っている知人と目が合った。
『やあ、透。』
「...どうも。もし帰りなら、良ければ送って行きますよ。」
今日の安室は珍しく、グレーのスーツ姿だ。そばに止めてある白い車は彼の愛車だろうか。
「一応、監視も兼ねてるので。」
眉を下げて苦笑いする安室。
彼が黒の組織、バーボンであると明かしてから様子が変だ。
今も笑って誤魔化しているが、その表情には明らかにぎこちなさがある。彼が表情をコントロールできないなんて、何か非常事態だろうか。
様子が気になり、誘いに乗ることにした。
車を走らせること3分。ずっと黙っていた安室が口を開く。
「今日も、特に何もなかったですか。」
『そうだね、相変わらず平和だな。』
「……。」
再び急に黙る安室。次の言葉を待っていると、車を道路の脇に止め、静かに口を開いた。
「この間、僕に言いましたね。僕を1番信用している、と。」
『…そうだね。』
「…。」
ハンドルを握る手に力を入れる安室。
俯く彼の顔は髪に隠れて見えないが、何かと葛藤しているように見えた。
じっと次の言葉を待っていると、彼は震える声で一言呟いた。
「……信用なんて、しないで下さい…。」
自分の呟きにハッと我に帰る安室。
だがもう手遅れだと判断したのか、ぎゅっと目を瞑り絞り出すように話す。
「僕は、貴女の思うような……」
『…透』
「………っ」
『透。』
「違う。」
小さな声は、掠れていた。
「.........違うんです。僕の名前は...ッ。」
『___"零"。』
安室は、一瞬時が止まったような感覚がした。
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休暇を求める者(プロフ) - 鹿野ユズナさん» ありがとうございます。すみません結構変えました…後半も新規ストーリーぶっ込んでるので更に混乱させるかもしれません。ごゆっくり… (2021年8月25日 14時) (レス) id: 4630244e4e (このIDを非表示/違反報告)
鹿野ユズナ(プロフ) - だいぶ内容が変化していて「あれ?!こんな小説だったっけ?!」とパニクりました。完全に自分の記憶飛んでるだけでした。頭の片隅にちゃんと居ました。リメイクお疲れ様です。1から読み直してきます。 (2021年8月25日 2時) (レス) id: 6c05b173a1 (このIDを非表示/違反報告)
休暇を求める者(プロフ) - リリーさん» わーありがとうございますこんな夜中まで更新に気づいて下さって…!!後半は結構新規ストーリーになっているので、ぜひお付き合いいただけましたら幸いです。 (2021年8月21日 0時) (レス) id: 4630244e4e (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 休暇さん、フルリメイクお疲れ様です!五エ門との電話や安室さんとのやり取り等、前とすごく変わってて、これ絶対すごく大変だ…と思いながら読ませて頂いてます。貴方様の作品すごく大好きなので、兎乃峰さん共々無理はしないで下さいね、続編も楽しみにしてます! (2021年8月21日 0時) (レス) id: d0e6075152 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - 冒頭のコメント失礼します。今度は、名探偵コナンの世界ですか。へ!?赤い彗星!?!?なんで、シャア アズナブルが?? え?冗談!?!? (2019年12月29日 10時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:休暇を求める者 | 作成日時:2016年5月12日 18時