episode 20 ついてない奇術師 ページ22
春の夜風が全身を強めに撫でていく。
いつもなら心地良いが、今は酷く不快だ。
今夜は満月。
それにちなんで、ビッグジュエルと称される珍しいムーンストーンが都内の高級ホテルで展示されていた。
…つい先程まで。
だが残念ながらパンドラでは無かったので、すぐに建物屋上に置いてきた。今頃、追いかけてきた中森警部が回収しているだろう。
(…ッ駄目だ、体が震える。)
満月の下を飛ぶ白いシルエット、その人物は体調が最悪だった。
季節風邪を患いながら盗みを強行し、冷え切った夜風にまんまと体調を悪化させられている。
酷く寒い。何か温かいものが飲みたい。
(早く帰___ッ!!!?)
なぜか突然、ハンググライダーがスピードを失った。減速ではなく、無である。小型ジェットターボもつかない。
「え、え」
落ちる。
「どわああああッッ!!!?」
ああ、今日はついていない。
___ドンッ
『ッ!?な、何の音?』
そろそろ布団に入ろうかと思っていた頃。屋根から鈍い衝撃音が聞こえた。何か落ちたのだろうか。
長めの羽織を身につけ、ベランダに出る。
屋根の上を見ようとした瞬間、隣に何者かが降り立った。そこには、
「___今晩は、マドモアゼル。」
恭しく礼をする、白いタキシードの男。
『ッこ、これは驚いたな…。怪盗キッドがどうしてこんなところに。』
「少し、羽を痛めてしまいまして。このような夜更けにお伺いしてしまった無礼を、どうかお許し下さい。」
そう言うとAの手を取り、彼女の手の甲に乗せた自分の親指にキスを落とす。
耐性の無いAは体が強張った。
『羽根…あ。』
もしかして無理矢理空間を捻じ込んだせいで、周囲に何かしらの歪みが出ているのだろうか。
そして彼はそれに引っかかってしまったと。
「どうされました?」
『ああいや、ここらへんたまに変な電磁波が出るらしいので。飛び立つならここから少し離れた方が良いですよ。』
「おや、私を見逃してくださるのですか?」
クスクスと上品に笑うキッド。
『現行を見ていないんでね。……けど、手が震えるほど凍えてるような病人を見逃すつもりはないぞ。』
え、と目を丸くするキッドにスマホを差し出すA。
「これは…?」
『うちには固定電話がないから、それしか通報出来ない。』
持っててくれ、と言った彼女は更にカイロをキッドに投げ渡し、一階へ降りていった。
(いや、俺にスマホ渡しちゃ駄目だろ…!?)
カイロが温かい。
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休暇を求める者(プロフ) - 鹿野ユズナさん» ありがとうございます。すみません結構変えました…後半も新規ストーリーぶっ込んでるので更に混乱させるかもしれません。ごゆっくり… (2021年8月25日 14時) (レス) id: 4630244e4e (このIDを非表示/違反報告)
鹿野ユズナ(プロフ) - だいぶ内容が変化していて「あれ?!こんな小説だったっけ?!」とパニクりました。完全に自分の記憶飛んでるだけでした。頭の片隅にちゃんと居ました。リメイクお疲れ様です。1から読み直してきます。 (2021年8月25日 2時) (レス) id: 6c05b173a1 (このIDを非表示/違反報告)
休暇を求める者(プロフ) - リリーさん» わーありがとうございますこんな夜中まで更新に気づいて下さって…!!後半は結構新規ストーリーになっているので、ぜひお付き合いいただけましたら幸いです。 (2021年8月21日 0時) (レス) id: 4630244e4e (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 休暇さん、フルリメイクお疲れ様です!五エ門との電話や安室さんとのやり取り等、前とすごく変わってて、これ絶対すごく大変だ…と思いながら読ませて頂いてます。貴方様の作品すごく大好きなので、兎乃峰さん共々無理はしないで下さいね、続編も楽しみにしてます! (2021年8月21日 0時) (レス) id: d0e6075152 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - 冒頭のコメント失礼します。今度は、名探偵コナンの世界ですか。へ!?赤い彗星!?!?なんで、シャア アズナブルが?? え?冗談!?!? (2019年12月29日 10時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:休暇を求める者 | 作成日時:2016年5月12日 18時