#４３. -KAGEYAMA side- ページ43
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雨が降るとどうしてもこうして紅茶を入れてしまう自分がいる。
自分で飲むわけじゃない。
誰が飲むわけでもない。
ここにはいない我が主の為に。
キッチンでティーセットをトレーの上に乗せて、あの部屋へ向かう。
暗い屋敷の中を1人歩く。
明るかったこの屋敷にはもう自分以外いない。
お嬢様が家を出ていったことは知らせなくても旦那様の耳にすぐ入った。
居なくなった責任は俺にあると言い、俺以外の全ての使用人は旦那様の屋敷には戻された。
1人になってからは毎晩お嬢様の部屋に明かりを灯し、彼女の帰りを待っている。
そして今日は雨。
もし帰ってきて体が冷えていたらと思い、無駄になると思いながらも暖かい紅茶を入れて待つ。
「今日は雷も酷いな」
あの日を想像させるほど酷い雷雨。
脳裏に焼き付いて離れないあの時のお嬢さまの表情。
──────────『あなたの事、信じてた私が馬鹿だったっ！！！』
思い出す度に後悔の念に襲われ、あの時どうして素直な気持ちを伝えることが出来なかった自分が嫌になる。
階段を登り、主のいない部屋へ続く廊下を静かに歩いていると。
その廊下の先からガタンと何が物音がしてビクッと反射的に反応する。
「何か落ちたの … か？」
ゆっくりと廊下を進んでくとお嬢様の部屋のドアが空いていて暗い廊下を明るく照らしていた。
耳を澄ますと女性の泣く声がその部屋から漏れているのが聞こえる。
いや、まさか。
「そんなこと … っ」
恐る恐る部屋の中を覗く。
──────────ガシャンッ！！
手に持っていたトレーは床に落としてしまったが、そんなの今はどうでもいい。
『 … 嘘っ』
そこに居たのは力なく座り込む数ヶ月ぶりに見る懐かしいお嬢様の姿。
雨で服は濡れて体にペタッと張り付き、髪からは雫がポタポタと垂れていた。
「お嬢 … 様 … っ」
俺が名前を呼ぶと更に頬を赤くして涙を堪える姿。
「お嬢様っ」
駆け寄り、彼女に抱えあげるように抱きしめる。
もう無理。
後頭部に手を添え自分の顔に引き寄せる。
「ご無礼をお許しください」
何も言わせず俺は彼女の唇を奪うと、声を漏らしながら俺の服をギュッと強く握られる。
唇を離しもう1度手を添えて確認し、強く抱き締める。
『 … 好きだよ、影山』
彼女の耳元で深く息を吸う。
今度は素直に。
もう手放さない。
「私も … 愛しております」
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作者名：夜天 | 作成日時：2017年3月9日 19時
