#５８ ページ9
.
紀久は私の姿を見つけるや否や安心したように微笑んだ。
「待ってろ、今行く」
『早く … 、お願い … っ』
届くはずもないのに、柵の間から腕を伸ばす。
「A … ？」
そんな私の様子に違和感を覚えたのか、一瞬で彼の表情が曇る。
死ぬ前に、もう一度だけアナタに触れたいの。
あとどれだけの時間この心臓が動いてくれるのかわからない。
だから、早く。
早くここに来て … っ
持っていた男を投げ捨てて彼のは一目散に2階へ上がろうとするも、状況が一変した。
蘭「なに悲劇のヒロインごっこしてるのかなぁ？」
『い … っ、離し、てっ！』
蘭「あれ、まだ元気じゃん」
私の髪を後ろから掴み上げたのは、どこからかともなく現れた蘭丸。
蘭「なんかすんごいことになってるけど、これどういうこと？」
眼下に広がる光景を見て、いかにも機嫌の悪そうな態度を見せる彼の扱いは今まで以上にひどかった。
『ひ … っ、い、あ … っ』
まるで怒りをぶつけるように、塞がりかけていた右手の甲の傷口に彼は爪を立て始めた。
紀「てめぇ … っ！！」
それを見た紀久は迷うことなく階段を駆け上がり、蘭丸に飛び掛かろうとしていた。
容赦なく傷口を弄られ、止まっていた血は再び滴り始める。
蘭「ふざけんのも大概にしろよ」
背後から声が聞こえた時、急に身体が軽くなった。
目の前でいたはずの紀久から遠くなり、さっきまで私を捕らえていたはずの蘭丸が目の前にいる。
どうして？
起きている状況を理解するよりも、ふわりと浮いた身体が落下していくスピードの方が早かった。
蘭丸は、私のことをバルコニーから投げ捨てた。
手を伸ばしても紀久の手には届かなく、バルコニーから身を乗り出す彼の姿がどんどん遠くなっていく。
ただ落下していく中で私は起きたことに身を委ねることしかできなかった。
「Aっ！！！」
ごめん、紀久。
結局私は、出会った時からアナタに迷惑しか掛けてこなかったね。
でも、そのアナタの優しさがささくれだらけだった私の心を2度も変えてくれた。
アナタに愛されて、求めていた愛情が手に入ったことがすごく嬉しかったの。
最後まで、私のこと大切にしてくれてありがとう。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 496人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜天(プロフ) - まゆさん» コメントありがとうございます！最後まで読んで頂きありがとうございました！日向ちゃんもいいですよねぇ...どのキャラも捨てがたい... (2020年7月18日 10時) (
レス) id: 29584efb35 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても面白くて完結が少し寂しいです笑、達磨一家の日向の話をリクエスタしたいです！次回作も楽しみにしてます (2020年7月18日 0時) (レス) id: c9422fb7c8 (このIDを非表示/違反報告)
夜天(プロフ) - みかんさん» 良かったら読んでみてください(*^^*)たくさんお話出来てうれしいですよ！ (2020年7月16日 20時) (レス) id: 29584efb35 (このIDを非表示/違反報告)
みかん(プロフ) - 夜天さん» ほんとですか！？楽しみです！！いっぱいコメントしちゃってすいません(･･;) (2020年7月16日 18時) (レス) id: d4768f32ab (このIDを非表示/違反報告)
夜天(プロフ) - みかんさん» ですよね！！すでに青い鳥アプリの方でちょこっとプリレジェとのコラボ作品書いてたりするんで、それを長編にしようかと... (2020年7月16日 16時) (レス) id: 29584efb35 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夜天 | 作成日時：2020年2月26日 15時
