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「あるじさま！」
その声が体をびくりと震わせた。
電気が走ったような、そんな感覚がして、何故か足や手が震えてしまう。
私の異変に気づいたのか、鶴丸が声をかけてくれるのに、私は声を出すことすら出来なくて。
優しく抱きしめられ、心地よいリズムが背中に刻まれる。
「主、いいか。俺達は殺すことはしない。それはこの本丸全員で決めたことだ。だから、この戦いが終わってから、心いくまで話せばいいさ」
＿＿そう、だよね。
皆は私に気を使ってか、作戦会議の時に「殺さない」という事を約束事として 話を進めてくれていた。
最後に強がろうと、自分より高い位置にある鶴丸の頭を 撫でる。
「ありがとう。頑張ろうね」と言葉を添えて。
「……また君はそうやって」
そういった鶴丸の顔はほんのり赤い気がしたけど、私は気付かないふりをして、戦場へと送り出した。
「あるじさま……」
そう呟いた声が、小さいはずなのに私の耳にははっきりと聞こえ、とても胸が苦しくなる。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて、「ごめんね」と目で伝える。
合わせた目は 涙で潤んでいて、それでも 力強く頷いてくれた今剣に、微笑で返す。
私がこうしている間にも、戦いはヒートアップしていて、刀の交じり合う音が あちこちから聞こえてくる。
私が屋根の上から 監視しないといけないのは、相手側の審神者。
今のところ 何もしていないようで、逆に怖い気さえする。
「大将、向こうの審神者はどうだ」
器用に 屋根の上を歩いてくる薬研に、変わったところはないと伝えると、途端に顔を顰める。
「……まあ、人間ができることは限られてはいるか。ただ、油断はするなよ、大将」
「うん。薬研は大丈夫？顔色悪いけど」
「ああ、平気だ。心配するな。引き続き頼むぜ」
背を向けて去っていく薬研に了解、と言ってすぐに審神者へと意識を集中させる。
「＿＿っ！危ない！！！」
気づくと、体は自然と動いていた。
「早く逃げて！」
皆の叫ぶ声なんて聞こえなくて、私は無我夢中で走った。
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作者名：なのか | 作成日時：2019年10月6日 18時
