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「自陣に突っ込ませなけりゃいい話だろ?」
「お前、留まることを知らんのか。ホンマに。」
攻撃力は申し分ないにしても、守備が心配だという誰かの零した懸念に対して、依岡はまたしても顔色一つ変えずにそう言った。そんな依岡に勘弁してくれと突っ込む烏は、未だ試合前だというのに、既に疲れきった表情を浮かべている。
青い監獄──養成所とは名ばかりの、言わば死なないデスゲームのような場所である。命の代わりに奪われるのが未来ある少年たちの夢だというのは、はたして喜んでいいのか複雑な所ではあるが。
失敗すれば、自分の人生が終わる。実際には選択肢など他に沢山あるし、生きている限りいくらでもやり直しが利く。だがそれはあくまで他人から見た場合であり、サッカーに全てを賭ける少年たちにとっては、ある意味デスゲームでの死と同義だった。
そんな状況下で、悠々と、自由に立ち振る舞う依岡の存在は異質そのもの。依岡のその調子を慢心と捉えたのか不愉快そうに眉を寄せる者や、なんだかチョロそうだとほくそ笑む者と、相手チームの反応も様々だったが、皆揃って一度は依岡へと意識を向けていたことは確かだった。
「さぁて、頑張っていきましょー。」
そんな呑気な声色の後に続くようにして、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
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作者名:susu” | 作成日時:2023年4月15日 14時