きっと、幸せ (ページ10)

今日:5 hit、昨日:9 hit、合計:60,305 hit

■ ページ10

*

セミが必死に自分の生きてる証を叫び始める夏
教室は本格的に受験ムードになってきた

とは言っても、うちの高校は頭はそこまで良くないけど歴史が長く、ある程度の内申があればいける推薦の枠がたくさんあるから、本気で勉強してるやつは半分くらい

オレは特にやりたいこともないし、行けるところ行ければいーやくらい

勉強も嫌いだし、なんか貰えそうな枠適当に入ろうかなって

前の席のガリ勉くんが朝からイヤフォン付けてシャーペンを走らす姿をボーッと眺めていれば、教室に入ってくる2人が目に入る

あの日から、湧は少し痩せてしまった気がする

それもそうだ、彼の身体には外すことの出来ない鎖がぐるぐると巻きつけられている

またなにかあれば、きっと彼女はまた自分自身を傷付ける

大切な人が自分のせいで自傷行為をはたらいてしまう

オレには計り知れない不安や恐怖が常に今の湧には付き纏ってる

『翔馬おはよ』

「おはようA」

そして、オレがあの2人と交わす言葉は挨拶だけになってしまっていた

今までは、そこまで珍しくもない束縛彼女、距離の近いバカップル程度にしか思われていなかった2人は

あれ以来あからさまに醸し出す雰囲気が変わって

元々敬遠されがちだった2人は完全にクラスで孤立した

Aはまだしも、あんなに明るくて人気者の湧までもが白い目を向けられるようになった

まだまだ思春期のオレたち、それに加え受験勉強でピリついた空間に、2人の存在は確かに異質だ
反感を買うのも仕方がないのかもしれない

その雰囲気を、彼ら自身も感じとってオレから距離を置いているのかな、と思ってるけど真意はわからない

それに、あの日犯してしまった罪とも言える彼女とのことは、結局湧に言えず終い

彼女に対する気まずさは相変わらず無いのだけど、湧に対する罪悪感はあとからジワジワオレを支配して胸の奥底に残ったまま

でも、今言ったら、湧が壊れてしまいそうな気がして
...なんてのは言い訳だ

「はぁ、...」

この溜め息に乗って、色んなものどっか飛んでっちゃえばいーのに