『距離感』Ⅱ (ページ40)

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「A！」

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いつの間にか流していた涙が止まらないまま、振り返れば

そこには初心者マークの付いた車が止まっていて
兄が手招きしていた

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『え、なんで...』

「俺が頼んどいた。A見送り行くから適当な時間に来てって。」

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タイミングばっちりじゃん、なんて無理に明るく言う元太

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「もう一度、想い伝えてきな。」

『元太...ごめんね、』

私はそう言って兄の車に乗り込んだ

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「ひっどい顔」

『...うるさい。てか間に合うの？』

「んー、ギリかな。俺、初心者だし。」

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兄の運転に一抹の不安を抱えつつ、先程の元太の言葉を頭に巡らす

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まさか、海斗のことを考えていたことがバレてるなんて思わなかった

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元太はおちゃらけているようで、やっぱり周りのことをよく見てる

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元太のことは間違いなく好きだった

ついさっきまでそう思っていた

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だけど、やっぱり私は海斗のことをちゃんと忘れることはできていなかった

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あんなに元太から愛を貰ったのに

幸せをもらったのに

あの時助けてもらったのに......

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「元太に対して申し訳ないとか思っちゃダメだよ」

『え...？』

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兄は慣れない運転をしながら私にそう言った

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「元太はそんなこと望んでないでしょ。さっき、なんて言われたか知らないけど、俺だったらごめんより、ありがとうって思ってもらいたいと思う。」

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"俺は、もう十分幸せだから。"

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さっきの元太のその言葉を思い出し、私は今更呟いた

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『元太、ありがとう...』

私も幸せだったよ。

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「はい、これ。」

『え、なんで...』

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信号待ちで突然兄が渡してきたのは

昨日、今までの気持ちとともにしまったはずのネックレス

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「元太に言われたんだよ。」

『元太が...』

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ちょっと探したから部屋汚くなったかも、わりぃ。

そう兄は言ったけど、そんなことはどうでも良くって。

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『...やっぱ、元太には敵わないなぁ』

「...ホントだな。」

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私は昨日ぶりに触れたネックレスを、自分の首にまわした

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「もう着くよ。」

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数ヶ月ぶりの再開を目前に

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私の胸はﾄﾞｸﾝ､ﾄﾞｸﾝと大きく波打った