転機雨 (ページ48)

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あれから5年の月日が流れた

「A！弁当ある？！」

『今できたよ、はい』

「ありがと！」

行ってきます、と唇に触れた温もりは私たちの日課になっていて、毎朝幸せを噛み締めてる

『あ、光輝待って！』

「ん？」

『今日、雨降るよ』

ありがと、と黒い傘を私に見せて微笑む彼を見送って
私も準備に取り掛かった

あれからすぐ、私は仕事を探した
もちろん大学中退した私が仕事をスムーズに探せる訳もなく沢山落ちた

だけど、光輝だけに頼っていられないって、
何度も何度も面接を受け続けた

途中で挫けそうになったけど、その度そっと抱き締めてくれる彼がいたから、何とか今の仕事に就くことができた

『おはようございます！』

「おはようございます、Aさん」

『おはよう、檜山くん』

何の巡り合わせか、私が働かせていただいているオフィスにあの時の男の子が去年入社してきた

まだ2年目なのに持ち前の社交性とルックスで、営業成績は先輩たちに負けず劣らず
お昼休みが被れば必ずと言っていいほど声をかけてきてくれて、彼の話で盛り上がった

今でもこうして気にかけてくれる人がいるのは、頼る先のない私たちにとっては本当に大きくて、感謝してもしきれない

『私ね、あのワンコみたいな人格は彼が自分を守るためのバリアだと思ってたの』

「あー(笑)」

『でも一緒に住み始めてすぐ気付いたの、あれが彼の本当の姿だって。一周まわってあのキャラを演じてただけであれが素だったんだって』

不思議な子だよね、って
思わず呟けば、檜山くんは何がそんなに面白かったのかケラケラと笑い始めて、あぁ類は友を呼ぶなーなんて

「俺はずっと知ってましたけどね(笑)
でもアイツ自身も多分気付いてなかったと思いますよ(笑)」

きっと、彼は1人でもがいてたんだ

本当の自分がなにか分からなくなるくらい、あの時を必死に生きていた

「Aさんのお陰です」

『え？』

「光輝のこと、救ってくれてありがとうございました」

彼はあの日、私を救いたいと言った

でも目の前の彼は、救ってくれてありがとう、と。

『......運命、だったのかもね』

互いに助け合い、求め合う

こうやって、私たちはこれからも支え合って生きていくんだろうなって

きっと明るい未来に、自然と頬が緩むのが分かった