転機雨 (ページ44)

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湿っている衣服に再び袖を通した

ホテルの自動ドアを通り過ぎるとやっぱりまだ雨は降っていた

『......神様って、きっと居るよね』

「え、？」

『だって...私の転機にはいつも雨が降ってるから、』

「っ、それ、俺も今日全く同じこと思いました、！」

心底驚いたように、目を真ん丸にする彼は
運命ですね、なんて恥ずかしげも無く笑ってみせるから

その純粋さに久しぶりに胸がときめいた

「先輩、傘持ってます？」

『持ってるように見える？(笑)』

「ですよね(笑)」

行きましょ、と差し出された手に引かれ雨に濡れるのはもう何回目だろう

でもきっとこの雨は、過去との決別、新たな自分になるために全てを洗い流してくれる、そんな意味があるんだと思った

こんなびしょ濡れじゃ電車乗れないですね、って
タクシーを拾ってくれた彼は乗り込む前、私の方を振り返った

「......ホントに、いいですか？」

『え、？』

「これ乗ったら、もう後戻りはできないです。」

その言葉を聞いて、決意を固めたはずの私の頭に5年間傍に居てくれた彼の顔が過った

いつも笑顔で、明るくて、みんなの人気者で

私の事を1番大切に思ってくれていた人

独りだった私を最初に救ってくれた人...

「......そんな顔、しないでくださいよ、」

『っ、どんな、顔...？』

「迷い、......まぁ、迷わせてるのは俺なんですけどね、」

「こんな簡単にアイツのこと捨てられないのも分かります。それに優しい先輩なら、俺のことも見捨てられないって、思ってくれてるんだろうなって」

違う、見捨てられないから着いていくことを決めたんじゃない

自分の意思で、彼の元を離れ黒田くんと新しい道を進みたいって、そう思ったから...

『...もう、決めたから。』

タクシーのドアの前に佇む彼の手を握った

もう私は揺るがない

『光輝が好き。光輝のそばに居たい。』