転機雨 (ページ35)

今日:9 hit、昨日:21 hit、合計:45,745 hit

35 ページ35

*
You

＿＿＿その瞬間、自分の中の何かがいっきに崩れ落ちたような感覚に襲われた

今日は広告で見た目玉商品を買おうといつもより少し遠いスーパーに買い物へ行っていた

歩き慣れない道、見慣れない街並みにたまにはこういうのも悪くないなって、ちょっとだけ胸を躍らせていた

安くお肉も手に入ったし、今日はいい日だなぁって

そう思ったのは一瞬だけで、

赤信号で立ち止まったとき、ふと視線を向けた先に居たのは青信号を渡る仲睦まじげな2つの背中

『...げん、た』

見間違えるはずが無かった
だってもう何年も一緒にいるんだから

隣の背中には見覚えなんてないけど、絡まった腕が全てを物語っていた

......全て、知っていたはずだった

彼がこうして私以外の女の人と何度も会ってること

だけど、必ず毎日私の元に帰ってきてくれるから、愛を感じられていたから

全て、知らないフリをしていた

平気なフリをしていた

でも、初めてその姿を見てしまった時、感情がぐちゃぐちゃになって、あぁあの笑顔他の人にも見せてるんだ

きっとこの後あの人にも愛を囁くんだ、って

今まで堪えてきたものが、一瞬にして崩れ落ちた

青信号になっても、足が震えて動けなかった

重たいスーパーの袋も、いつの間にか手から滑り落ちていた

青色の点滅が視界の隅に映る
人々はそれに向かって足早に私の横を通り過ぎる

泣くな、私.........

震える手で彼に誕生日に貰った財布から1枚の紙切れを取り出した

あの日、あの子と同じ制服の子がくれたノートの端っこ

お守りのようにいつも持ち歩いていたそれに書かれた番号に、
私は縋る思いで初めて、電話をかけた

知らない番号からの電話、出てくれるかなんて分からなかった

だけど、一番最初に浮かんだその顔
自分から去ったくせに、自分勝手にどうしても......

『っ、会いたい＿＿＿』

電話口、久しぶりに聞こえた声に、堪えていた涙が一筋、頬を伝った