転機雨 (ページ33)

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家に帰れば、ダンボールが積み上がるそこで
俺は最後の制服を脱いだ

「......母さん、」

「......」

「もうすぐ、迎えくるから」

母親は、精神科のある病院に入院が決まった

もう俺一人ではどうにもならないから、縋る思いで大人に相談したらそう勧めてくれた

俺は、バイトしてる飲食店で社員としてお世話になることが決まった

全国展開しているその店で、そのまま今の店舗で働くなんて都合のいいことはできないから、今の家は出ることにした

...最も、こんな一軒家で一人暮らしなんて勿体ないし
売れば多少の収入にはなるだろうって

昼前に終わった卒業式、お昼を過ぎると施設のワンボックスが家の前に止まり、母親を支えて家を出ていった

「よろしく、お願いします」

「たまには様子、見に来てあげてくださいね」

「......はい、」

去っていくそれをボーッと眺める

母さんごめんな、俺が子供なばっかりに......
父さんとの思い出が詰まってるであろう家も、売ってごめん

時間はかかるかもしれないけど

母さんは、幸せになってね

見えなくなるまで見送ったそれ
小さく息を吐き戻った家はいつもより広く感じた

残りの荷物も全てダンボールに詰め、何も無くなった部屋を見回した

あと数時間もすれば引越し業者が荷物を取りに来る

そうすれば本当に、この家とはさよならだ

父さんと母さん、ばあちゃん過ごした幸せだった日々が一気に蘇るような気がした

「......っ、」

情けない涙が頬を伝う

独り立ちするんだ、大人にならないと、そう思うのに
涙は止まることをしらなくて

1人、何も無い部屋で地面に座り込んだ

...数時間後、引越し業者が荷物を取りに来た

あっという間に綺麗になったそこで、お願いしますと頭を下げトラックが発車した

＿＿＿これが最後のチャンスだ

やっと行動を起こすときがきた

自分の決意が揺るがぬよう、ぐっと拳を握りしめた

時だった

ブンブンと震えるスマートフォンには知らない番号

「...もしも、」

『黒田くん、っ、！』

「え......せん、ぱい...？」

予想外の出来事に、なんで番号を知ってるの、とかそんなのどうでも良くて

ただ一言、聞こえてきた言葉に俺の足は理解するより前に動き出した

『っ、会いたい＿＿＿』