転機雨 (ページ16)

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土曜日のお昼

彼がサークルで家を空ける3時間程の時間

「すいません、時間取らせちゃって」

『ううん、私が誘ったんだから気にしないで？』

私服姿で眉を下げる黒田くんは、いつもと雰囲気が違って、何だかこっちがソワソワしてしまう

「でもなんで、ご飯行ってくれる気になったんですか？」

彼氏さん大丈夫なんですか？って、ちゃんと気をつかえるこの子は元々自分が誘ってた側だということを忘れたのだろうか

『ほら昨日、店長が最近ミス多いって言ってたから大丈夫かなって』

「...っ、ごめんなさい」

『いやいや謝らないでよ！勝手に心配してるだけ、お節介みたいなもんだから』

ね？って、目を合わせればありがとうございます、ってちょっと苦しそうに、優しい笑みを浮かべるから

また初めて見る表情だなって

『...何か、悩み事でもあるの？』

「......悩みっていうか、」

一瞬で、瞳が濁ったような気がした

いつだったか、彼に言われたことがある

出会ったばかりの頃、Aの瞳が濁ってて吸い込まれそうになったって

その時は、濁ってるのに吸い込まれそうって意味わかんないって思ったけど今ならわかる

彼が言ってたのはきっとこういうことだったんだって

吸い込まれるというか、目が離せない

「...ちょっとうち、家庭環境複雑で、」

「少し疲れちゃったって言うか...」

やっぱり、あの太陽は作り上げられたものだったのだと確信した

自分を守るためのバリアを張っていたんだ

そういう自分の闇を隠すために、明るくて眩しい太陽を身にまとっていたんだ

「...俺、先輩みたいに強くなりたい、」

『そんな...私なんて、』

＿＿＿私もあなたと一緒だよ

そう伝えることが出来たら、あなたは少しでも楽になるだろうか

でも自分をさらけ出すのは、怖い

「先輩......俺、先輩のことがす、」

言葉を言い切る前、お待たせしましたーと気の抜ける店員さんの声と目の前に置かれたオムライス

『...冷める前に食べよ？』

「......そうですね、」

私は弱いから

その言葉も聞こえないふり

心臓が、鬱陶しいくらい鳴ってるのも
気付かないふり＿＿＿