公安ですが、同居している上司に恋をしました【降谷零】

黒の頭脳 vol.6 ページ7

予定通り、会長の車はベルツリータワーに向かっている。


“ヤツ、会社とは別方面に向かってやすぜ。”


『みたいですね……寄り道でもする気でしょうか。』


ベルツリータワーには既に公安の人間が張り込んでいる。
それに、今日は土曜。
民間人も多い場所で大それた狙撃は難しい。


｢車が停りました。ベルツリータワーですね。｣


“マリブ、どうしやす？”


『射撃は不可能です。ウォッカ、ベルモット、中で追跡できますか？』


会長が車を降り、タワー内に向かったのを確認してそう声をかける。
私たちは少し車を回して入口前で見守ることにした。
ジンにこちらに来られては何をされるか分からないので、待機命令を出しておく。


『タイミングを見て射殺を。もちろん、目立たないようにお願いします。』


そう言って私はインカムの接続を一旦切る。
背もたれに身を預け、しばらく目を瞑った。




よし。





『私、ベルツリータワーの中に美味しい焼肉丼のお店があるので、夕食を買いに行ってきますね。』


｢…………自由人だな。｣


私はたまに、任務の途中にたびたび自由行動をしていたりする。
いつもは自分の車だからと高を括って勝手に動いたりしているが、降谷さん相手なら問題ないだろう。
中のことは中に潜入している捜査官達に任せてそくさくと買い出しに行く。
１階にはレストランスペースがあるので、そこでテイクアウトをすると、車に戻った。


『ここ、私の母が好きで帰省する時はよく買っていくんですよ。』


｢へぇ………………って、お前孤児院出身じゃなかったか？｣


『あれ、言いませんでした？私の両親が孤児院を経営しているので、私も孤児院で育ったんです。』


｢………………そういうことか。｣


降谷さんは酷く驚いた顔をした。
言ったつもりだったんだけど、気のせいだったか。
施設のみんなと同じように扱われるのが嫌な時期もあったが、一人娘だというのに兄や姉、弟や妹がいる生活は楽しかった。
たまに帰っては子供たちの面倒を見てやるものだ。
とはいえ、最後に帰省したのは3年ほど前だったか……

ちょうど焼肉丼を食べ終わった頃、インカムからウォッカの声がする。


“マリブ、対象を見失いやした”


『ベルモットは戻ってきてください。ウォッカはそのまま捜索を。体勢を立て直しましょう。』


あと1時間半、時間稼ぎをしなければ。

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