Narzisse IV

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川島は自身のロッカーに手をかけた。
更衣室に備え付けられている長椅子に乱雑にジャケットと荷物を放ると、両足を投げ出し腰を下ろした。
口角など一ミリも上がっておらず、溜息をついた川島は自身の襟元に手をかけた。片手で雑に解かれた滅紫色のネクタイを開いたロッカーの中に投げ込むと汚れたシャツのボタンに触れた。首元まで締め切っていたボタンを一つ、二つ、と外した川島は新しいシャツに手を伸ばそうとしたところで予備のシャツが無いことに気づいた。

｢ …最悪、｣

雑にロッカーの扉を叩くように閉めると荷物もそのままに更衣室の一番奥に設置されている少し大きめな黒いソファへと身を投げた。手も使わずに靴を脱ぎ捨てると川島はスラックスのポケットから携帯端末を取り出した。

待ち受け画面には通知が一件。
内容は吉澤からの食事へ行く約束の待ち合わせ時刻についてであった。約束の日は今日。宮近へ操術を教える話を知っていた吉澤は現在地の確認をした。報告書の作成をするため一度局へと戻っていた吉澤からの返信にはアカデミーにもうすぐ着くと書かれていた。返信代わりにと既読を付けた川島は携帯端末をソファの足元に放るとそのまま瞼を閉じた。

連日の捜査や講師で疲れているはずの体に中々睡魔は襲って来ず、部屋の灯りに眩しさを感じつつも一度上手くいかないことに嫌気が差した体を動かす気にはなれなかった。

廊下の方から聞こえてくる靴音に瞳を開いた川島は扉の方へと視線を向けた。ドアノブが引かれる音と共に入ってきたのは先程まで連絡を取っていた主である吉澤だった。

｢如恵留、ちゃんとどこにいるか返信してよ。｣

｢なんかめんどくさくなっちゃってさ。｣