Narzisse IV

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Hellblau ページ40

薄暗い講義室、机に突っ伏して眠る黒髪の姿があった。
規則正しい寝息は少し立て付けの悪い扉が強引に開けられても途切れることは無かった。扉を強引に開けた張本人の中村とその後ろから覗き込んだ川島は咄嗟に息を潜めた。そっと閉じた扉の前に座り込んだ二人は顔を見合わせると笑い合った。

｢寝てるじゃん、宮近。疲れてんのかな。｣

｢根詰めすぎなんだよ、ちゃかは。｣

｢誰かさんにそっくり。｣

声量を少し抑えてそう言った中村に川島は首を傾げた。
不思議そうな表情を見た中村は少し呆れ笑いを見せると何でもないとでも言いたげに首を横に振った。

｢ちゃか待ってると思って急いで帰ってきたけど寝てるなら先に着替えて来ようかな。｣

｢そうしなよ、俺ここで待ってる。｣

｢なんで海人も戦ったのに汚れてないの。｣

｢俺は誰かさんと違って袖で刃拭ったりしないから。｣

川島は立ち上がると、更衣室の方へと向かっていった。
返り血と明らかに拭いたことでできたことだと分かる袖の汚れに溜息をついた川島は局に戻った時の事に少し嫌そうな表情を見せた。

中村はゆっくりと扉を開けた。レールの軋む音が耳へと劈く。薄暗いままの講義室、宮近が眠る席の隣に中村は腰かけた。何を考えているのであろう、幸せそうに口角を上げたまま眠る宮近の目元にかかった黒髪を中村は指先で払った。

｢黙ってたらかわいいのになぁ、俺の事も閑也の事も敵みたいな顔で見るもんなぁ。｣

指先が離れるとそのまま目元へと黒髪がかかる。
傷んでいない黒髪に長い睫毛、端整な顔立ちを眺めるように、中村は机に頬を付けた。

時計の秒針が進む音と宮近の規則正しい寝息が講義室に響く。きっと川島が戻ってくるまであと少し、中村は雨が降り出した音を聞きながら瞼を閉じた。