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店の扉が開くと、来店を知らせるベルが鳴り響いた。
額に少し汗を浮かべスーツのジャケットを片手にドアを引いたのは深澤だった。店内に向かってひらりと手を振るとキッチンの中から深澤に声がかかった。
｢ ふっか、遅かったね、今日。｣
｢ クインケ使うの同期に教えてもらおうと思ったら講師に聞けって言われちゃったんだよね。｣
カウンターの椅子に腰かけた深澤は隣の椅子にアタッシュケースを置きジャケットをかけた。
｢ ……アイスコーヒーでいい? ｣
｢ 照が入れてくれるならなんでもいいよ。｣
少し目を泳がせた岩本はそのまま手元に視線を落とすと深澤に問うた。深澤に背を向けグラスを手にすると冷凍室から氷をグラスに移した。溢れるギリギリまで入れられた冷たいコーヒーに岩本は細いストローを挿すと深澤の前に差し出した。
｢ 今日外そんなに暑い? 朝はそんなにだったけど。｣
｢ んー、俺暑いの苦手だからなぁ。でもそろそろ夏だし暑いのかもね。｣
ストローに口を付けコーヒーを啜った深澤は一息つくと結んでいたネクタイを軽く緩めた。
｢ 何食べる? ｣
｢ んー、軽めなやつ。｣
｢ ちゃんと食べなよふっか、どうせ朝も食べてないんでしょ? ｣
｢ …お腹減ってない。｣
少し諦めたようにも見えた岩本の怒った表情に深澤は目を背けた。
｢ サンドイッチくらいなら食べれる? ｣
｢ ん、たまごのやつがいい。｣
｢ はいはい、ちょっと待ってな。｣
カウンターに背を向け調理に取り掛かった岩本はちらりと深澤の方を見た。どこか遠くを見るように窓の外を見る深澤の憂いたような横顔に岩本は目を伏せた。
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作者名：夏向 | 作成日時：2020年7月19日 11時
