Narzisse IV

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日本刀を構えた川島と対になった短刀を構えた吉澤は地面を蹴りあげると敵へと飛び込んだ。

｢しーくん《汞》どっかやったら駄目だよ?探すの大変なんだから。｣

｢頑張って見失わないようにするから大丈夫だよ多分。｣

｢もう、しっかりしてよね。｣

なんでもないような話をしながらも敵を減らしていく二人はお互いの背中を預けきっていた。

《汞》は対の短刀を模したクインケである。
吉澤が手指の如く扱うそれは投げ道具としても使われていた。以前の戦闘時にどこかに投げたまま行方不明になってしまい探すのに時間を要したことを思い出した川島と吉澤は顔を見合わせると苦笑いを浮かべた。

｢これで全部? ｣

｢まぁ、動けるのはもういないかな。｣

息絶えていたり身を抱え苦しんでいる喰種を横目に見た二人は依然戦闘中の中村の方を見遣った。
投げた後木に刺さってしまっていた汞を引き抜いた吉澤は中村に加勢しようとそれを構え直した。
川島も血を拭うと天魁を構え直す。

すると、ピンク髪の男はまだ息のある喰種を支えあげると中村の前から去っていった。逃げていく喰種を追おうとした川島と吉澤を軽く手で牽制した中村は先程まで捉えられていた女に足元に捨て置かれていた川島のジャケットを拾い掛けた。

｢見逃すの、喰種なのに。｣

｢逃げていったのをわざわざ追う必要は無いでしょ。｣

女に聞こえないように小声で中村が告げたそれに川島も吉澤も首を傾げた。

血で汚れたスーツを気にすることも無く女を吉澤に任せた中村は息絶えた喰種の前にしゃがみ込んだ。川島は長い間目を瞑り両手を喰種に合わせる中村を横目に自身もそれに続いた。