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Der Anfang ページ29
携帯端末をコートに仕舞い込んだ川島はそのまま走り出した。周りは見慣れた景色の筈なのに、走っても走っても永遠の様に感じられた駅前までの道は川島の呼吸を荒くした。
川島が駅前、二人が居てる場所へ辿り着く少し手前、曲がり角を曲がったところで川島は足を止めた。
渡辺に刃を向ける宮舘の姿に川島は手を伸ばそうとした。伸ばそうとした手は震え、自身の意志通りに動くことは無かった。目の前で崩れ落ちた渡辺の姿に川島は声を発することもその場から一歩進むことも出来なかった。
渡辺を抱き締める宮舘の姿に川島は1年と少し前の自身の姿を重ねた。手も足も震え1ミリたりとも動けない川島自身の体は力が抜けその場に座り込んだ。
渡辺の体から流れる血が宮舘の体を汚していくのも、宮舘の瞳から流れ落ちる雫が渡辺の体を濡らしていくことも、川島の視界を滲ませた。
白衣の男達は血に汚れた服のまま倒された白い枷の喰種達を引き連れて帰っていき、倒れていた捜査官達は体を引きずりながら渡辺と宮舘の元へ寄って行った。
完全に崩れ落ち座り込んだ川島の元に駆け寄ってきたのは先程川島が電話を掛けた相手である吉澤だった。座り込む川島の姿とライカが刺さったまま宮舘に抱きしめられている渡辺の姿を見比べた吉澤は何も言わずそのまま川島を抱き寄せた。
もう川島が何も見ないように視界を覆った吉澤の手は震えていた。かつて二人の、川島と吉澤の隣にいた相棒の、中村の姿が吉澤の脳裏を過ぎった。
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作者名：夏向 | 作成日時：2020年7月19日 11時
