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マンションの一室、目黒は吉澤が振舞った料理に舌づつみをうっていた。
｢ 吉澤準特等、料理もできるんすね。優しいし、強いし、モテそう。｣
｢ そうそうやっぱ見た目より中身だよな。とか思ってても結局イケメンがモテるんだよ、俺知ってる。｣
｢ そんなことないですって、ごちそうさまでした。｣
箸を置いた目黒は手を合わせた。食器をキッチンに運ぶと、スポンジを手にそれを洗い始めた。
｢ すみません、ご馳走になっちゃって。｣
｢ いや、別にいいけど。さっきから携帯鳴ってるよ? ｣
｢ ………どうせ研究所からなんで、大丈夫です、はい。｣
鳴り続ける携帯を見て見ぬふりをした目黒に吉澤は軽く息をついた。
｢ 飼い犬くんも大変だね、｣
｢ 別に、もういいんです。諦めてますから、とっくの昔に、それに俺は… いや、なんでもないです… ｣
目黒は自身の髪を梳いた。
抵抗なく梳かれた黒髪の間から覗いた白髪に吉澤は違和感を覚えた。
｢ 誰にも必要とされないことって意外と辛いんすよ。それが身近な人だと余計に。｣
苦し紛れに笑顔を見せた目黒に吉澤は少し呆れたような表情を見せた。
｢ 笑ってる目黒が一番素敵だけど、無理して笑う必要は無いと思うよ俺は。さっきも言ったじゃん、辛かったら頼れよって。｣
吉澤の携帯端末が着信音を鳴らした。
見知った名前が表記される携帯端末の画面を見た吉澤は首を傾げた。
｢ 如恵留だ、どうしたんだろ。ちょっと出るね、ごめん。目黒も電話出なよ、全然鳴り止まないじゃんそれ。｣
席を立ち目黒に背を向けるように携帯端末を耳元に当てた吉澤の耳に届いたのは川島の珍しく焦った声であった。突然切れた通話音に、吉澤は机に立てかけていた日和を手に玄関へと向かった。時を同じくして通信の途絶えた携帯端末を見つめていた目黒に吉澤は声を掛ける。
｢ 渡辺上等止めなきゃ、本当に堕ちるこのままじゃ。｣
革靴を履き鍵を手にし玄関を出ようとした吉澤の後を目黒は追った。浮かない表情の真実は彼自身が抱え込んだ。
｢ 急ぎましょう…。｣
吉澤の速度に合わせ二人は駆け出した。
大きな音を立てて閉められた扉の奥、忘れ去られた目黒の携帯端末に全ての終了を知らせる報せが鳴り響いた。
｢ もしもし、蓮? やっと出た。｣
｢ お仕事だよ、渡辺翔太の処分。できるよね? ｣
｢ 監視対象に情が湧いたなんて言わないでよね、特等監視官の名が泣くよ。｣
｢ ほら早く向かって、失敗作は壊さないと、ね。｣
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作者名：夏向 | 作成日時：2020年7月19日 11時
