Narzisse IV

今日:5 hit、昨日:8 hit、合計:50,979 hit

Fallen ページ3

暗くなった裏路地。
人影一つ無かった裏路地に入り込んだ一つの影は渡辺だった。アタッシュケースを抱えこみ空腹を耐えるようにそれに顔を埋めた渡辺を、薄い月が照らしていた。
両目を赤黒く血走らせたその姿は、喰種そのものと殆ど同じであった。

低い音で唸る渡辺の前に勢いよく舞った風と共に黒ずくめの男があらわれた。

｢渡辺上等、｣

黒ずくめの男、目黒はしゃがみこむと、渡辺の眼前に茶色い包みをぶら下げた。虚ろな目でそれを追った渡辺は無意識であろう手をゆっくりと伸ばした。もう少しで触れられるかといったところで目黒はそれを手中に収めた。

｢腹減ってるんですよね、人間の飯も不味くて不味くて堪らないんですよね。宮舘上等は成功したのに、自分は失敗したんですもんね。あーあ、可哀想に。｣

本当に思っているのか居ないのか、眉尻を垂れさせ憐れみのような表情を向けた目黒の真意はだれも分からない。

｢ ……さっさと寄越せそれ。｣

｢えー、どうしようかなぁ。んー、まぁいっか。｣

目黒は茶色い包みを渡辺の手元に放り投げた。
投げられたそれを勢いよく掴むと渡辺は包みを破り捨て赤い塊を口に含んだ。

肉塊を頬張る渡辺の左目を覆う眼帯を目黒は指先で引っ掛けると剥ぎ取った。

｢もう完全に喰種、ですね。｣

目黒の瞳が完全に喰種と同等になった渡辺の目を捉える。虚ろな視界を揺らした渡辺の目に鋭い赫子を揺らした目黒の姿が映った。

｢バレないように、してくださいよ。処分、されたくないでしょ? ｣

目黒の言葉に渡辺はまだ朧気な脳を必死に働かせ言葉を紡いだ。

｢なんで、お前が涼太の施術結果知ってんだよ。それに、お前だって半喰種だろ。いつ俺とか、中村特等みたいになるかわかんねぇだろ。｣

渡辺の問いを目黒は嘲笑った。
高らかとした抑えきれない笑い声が路地裏に響いた。

｢俺が何者か、一番わかってるのは渡辺上等でしょ?
それに、俺はあんたら偽物の、つくられた半喰種とは違うんですよ。一緒にしないでください。｣

目黒の表情は暗く影がかかり読み取ることが出来なかった。目黒の言葉に渡辺は苦い表情を見せる。

｢飼われることしかできない犬のくせに。｣

渡辺の最大限の嫌味は既にそこからいなくなっている目黒には届かなかった。