Neigung ページ1
左手を見つめたままだった川島を宥めるように吉澤は傷んだ金髪に柔らかく触れた。完全に顔を填め呻き声のように呟き始めた川島に吉澤は髪を乱す。
｢ 如恵留、そんなに落ち込まないの。｣
｢ だってさ、宮近にあんなこと考えさせてさ。俺最低だよね。｣
｢ ……。｣
吉澤は何も言わなかった。優しく、優しく川島の髪を梳くだけであった。何も言わない吉澤に川島は細めた目を向けると弱々しく笑った。
｢ しーくんは、優しいね。｣
｢ 優しい?? ｣
｢ うん。｣
吉澤はオレンジ色のストールの喰種を思い出した。
"やさしすぎる"
その言葉は吉澤の脳裏に何度も何度も蘇った。
あの時深澤を殺さなかったことも、
来雨だった青年の希望を叶えたことも。
｢ 優しいのはしーくんのいいところでしょ。｣
｢ んー…自分じゃ分かんないなぁ、｣
｢ 分からなくてもいいから、ずっとそのままでいてね。｣
川島の切なる願いに吉澤は頷いた。
自身の頬を数度叩くと、川島は立ち上がる。
吉澤に剥ぎ取られたジャケットを受け取った川島はアタッシュケースを手に取ると、吉澤の手を引いた。
｢ 行こ、俺ちゃかにごめんなさいする。｣
｢ ん、行こ。｣
執務室を出た二人は吉澤の歩くペースに合わせゆっくりと歩き出した。されるがままに手を引かれる吉澤に川島は思い出したかのように話を始める。
｢ そういえばさ、しーくんを特等にって話が出てるんだけど受けるよね? ｣
｢ え? この間準特等なったばっかりなんだけど……。｣
少し嫌そうな表情を見せる吉澤に川島は微笑んだ。
｢ 高レート喰種二体の処分に溜まりに溜まった実績の数々。しーくんとっくの昔に特等でもおかしくなかったんだからね? ｣
｢ え〜、まぁ、ちょっと考えとく…うん。｣
渋々といった表情を見せた吉澤に川島はぽつりと呟いた。
｢ また、三人並べたら俺は嬉しいな。｣
｢ …そうだね。｣
三人並べたら、その願いは届かない。
失われた太陽に、月と空は思いを馳せた。
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作者名：夏向 | 作成日時：2020年7月19日 11時
