Narzisse

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その後岩本は、喰種が営むレストランで働くようになった。狩りのできない喰種の為に食糧を集めてくれる集団との繋がりが、岩本にとってはとても有難かった。

ある日、レストランで仕事中のこと、一人の男客がやってきた。〈深澤辰哉〉と名乗る男は週に一度店に足を運ぶようになった。喰種と人間が関わるのはよくないこと。岩本自身それは充分にわかっていたつもりだったが、不思議と深澤に惹かれていった。

初めて店に来た深澤は紺色のスーツに銀のアタッシュケースを手にし、コーヒーを一杯だけ頼むとすぐに帰っていった。

店に通うようになった深澤はいつしかスーツを着なくなり手ぶらになり、コーヒーを一杯とサンドイッチを頼み長居をするようになった。

｢ふっか、｣

｢なーに、照。｣

岩本がカウンターから身を乗り出し深澤に話しかける。
サンドイッチを口に運ぼうとした深澤は、その手を止めて顔を上げた。

｢仕事、辞めたの? ｣

首を傾げながら深澤に問う岩本は、何も答えることなくサンドイッチを口に運んだ深澤を見て肯定と捉えたのか、問いを重ねる。

｢なんで? ｣

｢仕事より大事なものができた、って言ったららしくない? ｣

そう岩本の目をまっすぐ見つめながら深澤は問い返した。

｢らしくない、けどふっかそういうとこあるもんね、うん。｣

交わっていた視線から逃げるように岩本は作業へと戻る。そんな後ろ姿を見て深澤は思わず笑みを浮かべた。

岩本と深澤はいつしか、ちゃんとしたきっかけなど本人達でさえ分からないうちに友人になっていたし、それ以上の関係になっていた。