20話 ページ21
むしゃくしゃしたまま俯いていれば、そろりとトン氏が入ってきた。
「あの〜、グルさん、今めっちゃ走って行ったAとすれ違ったんやけど、なんかあったん？」
俺を心配するような表情に、余計苦しさを覚える。
「…まぁ。俺がやってしまった」
「…どういうことか聞いてもええか？」
近くの席に腰掛けたトン氏が優しく問いかけてくる。
俺はさっきの出来事、俺の愚かさを話した。
「ん〜、なるほど。
俺は、どっちも悪ないと思うなぁ」
「え？」
「だって、お互いがお互いの関係を支えて行くために気遣いやら否定をしたんやろ？
Aはグルさんの力になりたかった、グルさんはAとの関係を崩したくなかった。
ていうか、グルさんがAに、悩みのタネを打ち明けられんかった事を後悔する必要はないと思うで。言ってたらもっと訳分からんことなっとったやろ」
楽しそうにあはは！と笑う。
隠し事をしたのが良くなかったと思っていたが、俺にはそもそもその選択肢しか与えられていなかったらしい。
…でも、彼女の優しさを仇で返した気がして、どうしようもなく辛くなった。だから開き直ることができないのだ。
正しかった選択肢は何度考えても見つからない。
元からケンカすることは決まっていた話なのだろうか。
いや、俺がこの気持ちにさえ気づいていなければ…。
「…グルさん」
「……」
「気に病みすぎや。俺よりグルさんの方がAのことよく分かっとるやろ？
そう簡単に人を嫌ったりするようなやつやないんとちゃうか？」
「……」
「あ〜…、アンタがそんな調子やと俺の調子も狂う…」
頭をガシガシとかくトン氏の照れ隠しの様な仕草に心の乱れが多少落ち着いてくる。
「すまんな」
こんなにも落ち込んでいる俺を励まそうと、ひたすらにしゃべりかけてくれる友人に、感謝の思いが溢れる。
悪友だかなんだかいつも言っているが、やはり彼は一番信頼できる友人だ。
「ええよ。
できるだけはよ仲直りするんやで？」
「ああ」
「あ、仲直りする流れで告白してもええんやで？」
「はぁ？何言ってんねん」
頭おかしいんか。
「いやいや冗談やん！……半分は。
もう半分本気やで」
「………」
なんで、そうなるんだよ…。
「……お前のことが好きやから悩んでんねんって言ったったらええやん」
「むりに決まっとるやろ…」
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作者名：煽田 -アオタ- | 作成日時：2022年6月19日 21時
