�� ページ3
それからしばらく、俺はAを避けていた。
彼女を見る度にあの気持ちが滾るようで恐ろしかった。
それなのに彼女は俺に付きまとう
『燈矢くん！！』
帰り道、彼女は後ろから付いてきては声をかける。
『なんで無視するの』「別に」
「…私の事嫌いだった？」「は？」
その言葉にピタリと足を止める。
『だって、燈矢くんあの時ずっと怒ってたから。それに』
「…やめろ」
『ごめん……。』
「大体なんで叩いてとか言うんだよ」
『お母さん、いつも私をね叩くの。あんたなんか嫌い。生まれてこなきゃ良かったのにって。』
彼女を取り巻く日常でそれは当たり前だった。
『私、分からなくて。そんなに嫌ならなんで、私を選んだんだろうって。どうして私が生まれたのか、分からないから』
彼女の中で何度も何度も繰り返される母親の言葉。
「あんたなんか産まなきゃ良かった」
私だって選べるなら＿＿＿＿。
『私が好きな燈矢くんに叩かれたら何か分かるのかなって…』
不安そうに潤んだ瞳で見上げる彼女をぎゅっと抱きしめる。
愛に飢えた彼女を守ってやりたいとただなんとなくそう思った。
「…俺がお前に理由をやるよ。おまえが生まれてきた理由。」
彼の吐く息が耳もとでする。
ここに確かに彼が存在していてそれがなぜだかとても安心した。
『…燈矢くんは、私のヒーローだね』
その言葉に足りない何かが満たされるような気分がした。
「なぁ、それもう1回言ってよ」
『燈矢くんは、私のヒーローだよ』
抱きしめていた彼女の顔をじっとみる。
その顔、その瞳、まじまじと見つめるほどに身体中に何かが滾る。その全てを俺のものにしたい。
頭で感じた頃には既にその唇にかぶりついていた。
『ちょっ、やめてよ、燈矢くん』「ん？」
『なんでキスなんかするの！』
逃げようとする彼女を手を彼はぐいっと引き寄せる。
『やめｯ…』
「ほら、Aちゃんの鼓動が聞こえる」
嫌がる彼女の意思を問わず、彼は胸に耳を当てる。
どくんどくん＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿。
確かに彼女が鼓動をしていて、
彼女が生きている証がある。
「生まれてきてくれたから、ココに来てくれたんだろ」
君の鼓動も君の呼吸もその全てが君が生きている証明をしていて、その全てが欲しくてたまらない。
焦凍なんかに取られないように自分のモノにしてしまいたい。
「だから、このままじっとしてて」
小刻みに震える彼女の唇を己で支配していく。
彼女の中に自分という証を記していくように。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：SEI | 作成日時：2023年8月27日 1時
