�� ページ19
「気が散る。さっきからなんなんだ」
『貴方、ヒーロー？』
突拍子も無い言葉だった。
しかもその予想は当たっている。
「まぁな」
『じゃあ、世界を幸せにする人なんだね』
「俺一人で世界が救えたらそりゃ立派だな」
『ね、その幸せの中に私も含んでくれるかな？』
「は？」
初対面で、頭のおかしなやつだと思った。
すると、ソイツはいきなり笑いだす。
「…今度はなんだ」
「ううん。さっきの、台詞なんです。次の映画のオーディションの。ヒーローに恋した女の子の役。
貴方、ヒーローでしょ？リアルにやれるかなって思って」
意味のわから無いやつだと思った。
けれど真っ直ぐに女優の夢を語るソイツがヒーローとは無縁の世界にいるソイツが、眩しくも見えて、居酒屋に通っては彼女と会い、やがて2人きりで会うようになった。
言葉の約束こそしてないが、
俺にとっちゃ大切なやつに違いなかった。
「ね、相澤さん」
「なんだ？」
「きいて、オーディション受かったの！
ヒロインに決まったの」
「…すごいな」
それは彼女が求めて求めてやっと手を伸ばして掴んだもの。夢を追い続けてやっと手にした光だった。
「絶対見に来てよ？」「暇ができたらな」
「あ、まーたそんなこと言って」
「生憎俺はヒーローなんでね」
「ヒーローは世界を幸せにする仕事だもんね。しょうがないか」
素直になれない俺に対して本気で項垂れるソイツが愛おしかった。穢れのない真っ直ぐな彼女に、そっと口付けをおとす
「え…」「俺が幸せにする世界にお前も含んじゃだめか？」
頬を赤らめる彼女が愛おしくてまたその唇にかぶりつく。甘い甘い夜だった。
【イレイザーヘッド、緊急要請だ！駅前で敵が暴れている。個性はおそらく爆破系。ビルに盾籠っていて、他のヒーローは無茶ができない。至急応援を頼む】
個人の事務所に届いた1本の連絡。
その日は、アイツの映画を見に行く予定だったが、
仕方なく取りやめて急いで現場に駆けつけた。
ビルに到着した俺は慎重に建物の中を進む。
最上階に到達する直前の事だった。
「…は？」
爆破でぐちゃぐちゃになった身体は良く見えちゃいないが、それは朝まで共に居たはずの彼女の顔だった。相澤は何も言わず、真っ直ぐに敵の元へ向かった。
そこから先のことはあまり覚えちゃいない。ただ敵は捕まった。治療されて完治してタルタロスに眠る。
なぜそいつは生きて、あいつは＿＿＿＿＿＿。
考えたくないことがぐるぐると頭を巡る。
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作者名：SEI | 作成日時：2023年8月27日 1時
