�� ページ17
みーん。みーん。みーん。
騒がしい蝉の声を無視するように
YouTubeで音楽を聞きながら帰路に着く。
その途中だった。
「……ｯﾁ」
『ごめんなさい…!!』
歩きスマホに夢中になっていた私は前を歩く彼に気づかず思い切り当たってしまった。
ギロリとこちらをみる彼はツギハギだらけで異様なオーラを漂わせていた。まずい。やばい人にぶつかったかも。
ダラダラと冷や汗が背中を伝う。
「…へぇ」
『あ、あの……』
男は落とした私のスマホを拾っては
ケタケタと笑っていた。
「【願いが叶う音源】ねぇ」
YouTubeで聞いていた巷で噂のヒーリング音楽。
こんなもんに夢中だったのかよなんて彼の嘲笑う声がする。
「まぁそう畏まるなよ。なぁ？」
言葉とは裏腹に、するりと肩に回される腕に
心臓が騒がしく音を立てる。
「それはそうと、こんな音源に縋ってるとは、
幸せそうで何よりだよ。可哀想に」
態とらしく画面を見せびらかす彼は
どこか楽しそうにみえた。
『えっと……まぁ……そう、ですね』
彼が何を言いたいのか、なんでこんなに親しげなのか全く分からなかったし、とにかく恐怖でしかなかった。
一刻も早く立ち去りたいとそればかりが頭を埋め尽くす。
「おいおい、随分な挨拶じゃねぇか。ま、今日の所はここまでにしてやるよ。俺はお前と違って優しいんだ」
先程までの密着ぶりはどこへやら背を向けながらヒラヒラと手を振って去っていく男。
へにゃり。思わず腰が抜けて地面にしゃがみこむ。
なんだったのだろう。あの男は。
あんなにおぞましい見た目の彼を私は知らない。
あれは幽霊？そこで思考はパッタリ止まる。
そんな馬鹿げた話があるわけない。
仮に幽霊が存在するのなら私はとっく燈矢くんに会えているだろうから
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作者名：SEI | 作成日時：2023年8月27日 1時
