貴方に送る愛言葉【ヒロアカ短編集】 (ページ16)

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② ページ16

たぷたぷたぷ。

入れられたばかりだろう水鉢の水を新しく注ぎ直す。
きっとあの日は熱かっただろうから、いっぱいお水を飲んでくれたらいいななんて。

「燈矢兄、今年もAちゃん連れてきたよ」

きっと先日も墓参りにきただろう冬美ちゃんは
私の為にそう言ってくれる。

『燈矢くん元気してる？
どうせまたお前来たのかよって思ったでしょ』

彼の声を思い出しては薄らと笑みをこぼす。

「Aちゃん！ヒーローごっこしようよ！」

明るかった赤毛の彼はいつからかそんなことを口にしなくなった。

「……お前またきたのかよ。もうごっこ遊びはしないからな」

いつの間にか真っ白になった彼がそう言えば

『ごっこ遊びはいいよ。訓練付き合ってあげる』

「は？なんでお前が」

「私水の個性だし相性は悪くないでしょ」

私はそんなふうに笑いながらいつも彼のそばに居た。
こんなに思い出せるのに彼との思い出は10年前から進むことは決してない。
どうして、どうしたら
そんな問を投げかけても彼は答えてはくれない。

こんなことならいっそちゃんと
「好き」って伝えておけばよかった。

この後悔が心残りで私の中で消えない彼。
他の男では上書きをなし得なかった。

『……また、来年もくるね』

永遠に喉につっかかったままの好きは
今日も言えないまま彼の墓に背を向ける。

とぷん。

キュウリとナスに爪楊枝をつけた精霊馬を川に浮かべては流してやる。
冬美ちゃんと別れて1人で向かったこの川で、
今年も彼に別れを告げる。
またね、燈矢くん。今度は私に声聞かせてね。

流されてドンドン見えなくなる精霊馬をじっと見つめて
小一時間。もはやそれらの影すら見えないのに
どうしてかここから離れたくなかった。

『……また会いたいよ、燈矢くん』

「さっき会ったばっかだろ」

聞こえないはずの燈矢の声が頭の中で響いていた。