どんな摩耶樫より【轟燈矢】 ページ15
『このキュウリならいい馬になるかな』
8月も中旬。
蝉の騒がしい真昼間に親友の冬美とお盆の準備をする。
「Aちゃんが選んだやつなら燈矢兄なんでも喜ぶと思うよ？」
『そう？この馬だせぇとか言ってそうじゃない？』
不満顔して文句を垂れる彼の顔が
今でも鮮明に想像出来る。懐かしくて大好きな顔
「えぇ、燈矢兄 Aちゃんの前だとそんな感じなの？」
『そうそう、ほんとこんな感じ』
出会った頃、真っ赤だった彼の毛は大きくなるに連れて真っ白に変わっていった。
次第に彼の性格も変わっていったし、周りを突き放していくようになったけどそれでも私は彼の隣にひっついていた。
【個性の訓練みててあげる】とかそんな理由で彼を誘って。好きな人の傍に少しでも長く居られたらなんて。
そんな私の淡い恋心は、彼の死をもって終わった。
それでも彼は今でもこうして私の心から消えてはくれない。だからもう一度会えたらなんて期待を込めて毎年毎年彼を迎え入れる準備をする。
『ごめんね、今年も付き合わせちゃって』
「ううん。こちらこそごめんね。
お父さんのこと、説得できたら良かったんだけど」
『全然。冬美ちゃんは悪くないよ。
…エンデヴァーさんが言うことも何となくわかるから』
燈矢の父、エンデヴァーとは何度か顔を合わせたことがある。
とはいっても燈矢に呼ばれて家を訪れた際にこちらが勝手に見ていたようなものだが。
それが直接的なものになったのは奇しくも彼の葬式の場だった。ぺこりとお辞儀をすれば冷たい声が返ってきた。
「お前が燈矢を唆したのか」
忘れもしないその言葉は今でも私を罵ってくる。
まるで、お前のせいで燈矢が死んだとそう言われているみたいで。
小さかったあの頃、未熟な私たちは自分達は凄いのだといきがっていた。実際彼の炎は高温だったし、スーパーヒーローになれていたと思う。対する私は水の個性。彼が訓練で放った炎を上手く消火できるし、火傷があればすぐさま洗い流せた。2人でいれば怖いもの無しだってあの時は本当に信じていた。
『燈矢君がヒーローになったら私古参名乗ろ』
「あっそ」
『まーた、そんな事言って。私はほんとに思ってるからね』
今思えば大人の目のないところで随分と危険なことをしていた。エンデヴァーさんの言うことももっともだと思うし、だからこそ、このお盆で彼が帰ってくるあの家に私は居られない。でも私だって会いたいから厚かましくもお墓参りだけはお邪魔させてもらっていた
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作者名：SEI | 作成日時：2023年8月27日 1時
