�� ページ14
『……分かってるよ。それくらい』
ぽろりぽろりと彼女の感情が溢れていく
『そんなこと分かってるよ。
お兄ちゃんがもう帰ってこないことも。現実みなきゃいけないことも。前に進まなきゃいけないことも。』
もう大人なんだ。
全部全部全部、分かってる。でも＿＿＿＿＿＿
『私がお兄ちゃんを置いていったら
誰がお兄ちゃんのこと覚えてるの？』
誰も知らない【ラウドクラウド】のその名前。
彼が何を成したのかも彼が誰を助けたのかも命を賭したことさえも時間が経てば風化して。
前を向いて置き去りにすれば、すべてが過去になるようで
「俺もいる」
その言葉は雨が降りしきる彼女の心を
ゆっくりとあたためていく
「俺も山田も香山さんも皆覚えてる。
お前が前に進んだってあいつは俺らの中に残ってるだろ」
同じ傷を持っているから、同じように傷ついたから。
同じヒーローを失ったから。
『ショータくん……』
「独りで無理に歩く必要ないよ。
ゆっくりお前のペースでいい。」
『ショータくんに迷惑かけるよ』
「かけてないよ」
『かけてるよ。私、狡いから、分かってて利用したんだよ。お兄ちゃんのことで、ショータくんを縛ってるのに』
「俺がいたくてお前と居た。
傷ついたお前を利用したのは俺の方だよ」
互いに互いを気遣って変にすれ違って。
きっとあの時から何もかも変わってない。
ずっと本当はお前のことが、あなたの事が＿＿＿＿＿
「……なら花火、また特等席で見てくれるか？」
『……いいの？』
「約束を破るような男になったつもりはないんでね」
『うん、じゃあ約束ね』
まだ遠い次の夏に想いを馳せて。
止まっていた彼らの時はもう一度進んでいく。
＿＿＿ヒュー、ドカン
光る花火が2人を照らす。
「……ほんと、いい景色だな」
『でしょ？ここなら花火がよく見える』
「あぁ、お前のこともよく見えるよ」
火照る身体は夏のせいか、はたまた＿＿＿＿＿＿＿＿
雨の日に置き去りにしたその言葉、今なら言える
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作者名：SEI | 作成日時：2023年8月27日 1時
