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Kside
そこから毎日あの男はレジに来るようになった。
何も言わずに、またねとだけ言う日もあるし、今日も可愛いねなんて気持ち悪いことを言われた日もある。
つけられている確信はないが、もしかしたらと、夜に家へ帰る日はドキドキしながら早歩きをした。それに、思い込みかもしれないが、何回かに一回本当に誰につけられている感覚もした。
今課題が忙しいなどと理由をつけて、太輔とコンビニに長居をするのも避けた。少しでも帰る時間を早くしたかった。
そのせいで、歩く距離は長くないにも関わらず、家に着いたらどっと疲れていた。俺のただの気のせいかもしれないのに、とてもストレスだった。
しかし、気のせいである可能性が高いうちはまだよかった。
ある日の男のある一言で、そうではない可能性が高まってしまったのだ。
「おはよう北山くん」
「…おはようございます」
「最近、元気ないね」
「そう…っすかね」
お前のせいだよと思いながら、目を合わせないようにレジを打っていると、突然屈んできた男とバッチリ目が合い、びっくりして持っていた物を全て落とした。
「し、失礼しました」
大きな物音を立ててしまったので、慌てて謝る。ゆっくり男の方を見ると、また目が合った。男はいつものようにニタニタと笑っていた。
早く終わらそうと、急いでレジを打つ。
早口で金額を伝えると、ぐいっと男の顔が近づいた。
「最近、あのコンビニには行かないの?」
俺は思わず目を見開いて固まった。
それを見てまた笑った男は、ちょうどねとお金を置いてカゴを持って行った。
足が震えているのがわかった。
しばらく動けなくて、次に並んでいたお客さんにすみませんと声をかけられるまで、自分が固まっていたことにも気が付かなかった。
「す、すみません…」
「大丈夫?具合悪い?」
「や、ち、違います!大丈夫です!すみません…」
物を落としていたところも見ていたのか、次に並んでいた優しそうなおばさんにそう声をかけられて、少し心が落ち着く。
いや…でも、多分一時的なものだろうけれど、本当にちょっと気分が悪い。
列はちょうどそのおばさんで切れていた。俺は一旦レジを閉めて、トイレへと走った。
トイレに入ると、一気に吐き気が迫り上げた。吐こうとせずとも、勝手に吐けた。
「はぁ…っ、はっ…」
鼓動がうるさく早いことにも気が付く。ドクドクして気持ち悪い。
涙も勝手に込み上げて、ボロボロと落ちた。情けなかった。
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作者名:櫻弓 想 | 作成日時:2023年2月12日 23時