「足りない足りない足りない」番外編 FK ページ19
Kside
「北山ーこのあと稽古？」
7人での収録前、藤ヶ谷に声をかけられた。
「うん、そうだな」
「明日は早いの？」
「いや、明日は稽古だけだから昼から」
どうした？と聞くと、家で待ってていい？と言われる。
「…うん。21時には終わる」
「じゃーご飯買って待ってるから。まっすぐ帰ってきてよ」
「…おん、さんきゅ」
藤ヶ谷は、周りがあまりこちらを見ていないことを確認すると、優しい顔でこそっと俺の頭を撫でた。
「何照れてんの」
「照れるわ、普通に」
「んはは。かわいい」
また伸びてきそうな手を、やめろよと払ったが、本当は嬉しかった。払われた藤ヶ谷も、俺が照れてるのをわかって、嬉しそうな顔をした。
「藤ヶ谷は…逆に大丈夫なの」
最近あまり会えていないのは俺が忙しいせいなのに、気を遣わせてるなと思う。
「ん？なにが」
「そんなゆっくりできないのに、わざわざ来てもらって」
「なに気にしてんの。全然大丈夫だし、少しでもゆっくりしたいから行くんだよ」
せめてもと思って先に食べてていいよと言ったが、一緒に食べるに決まってるでしょと言われた。収録が始まるからと、そこで会話は切れてしまった。
昨年の夏、互いの舞台で忙しく、さらに俺は博多に滞在したことから、約1ヶ月全然会えず。
そのあと俺が爆発してしまったせいで、多分今あまり会えていないことを、藤ヶ谷に気に掛けさせている。
確かに、充実の裏には疲れも勿論ある。覚えなきゃいけないこと、高めたいことが多くて、プレッシャーもあって。そのせいで不安になることもある。
でも、また心配かけたくない。俺は大丈夫だって、思わせてあげなきゃな…。
帰り際、藤ヶ谷に声をかけようとしたが、なかなか楽屋に戻ってこないため姿を探した。
「…あ、」
スタジオまで戻ると、その手前の道陰で今日の共演者と楽しそうに話している藤ヶ谷。前にドラマでも共演経験のある女優さんだ。
収録中も、その時の話になったりして盛り上がっていた。カメラが回ってるからって言い聞かしてたけど今は…いや、久々に会って話すことことくらい、誰にでもある。気にすることない。
声はかけられず引き返した。大丈夫だと言い聞かせたのに、結局もやもやしたまま稽古をしてしまった。
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作者名：櫻弓 想
| 作成日時：2023年2月12日 23時
