�� ページ29
時計が18時を指す。
トイレで化粧直しはしてきた。
よし、とまさに用意をしてカバンを持ったところで、
係長に声をかけられる。
「Aもう帰る？一緒に飲みに行かない？」
「あ、いや、」
断りを入れようとした瞬間、
「あ〜ちょっと待った。すいません！Aとこれから打ち合わせを兼ねて食事に行く予定でー」
ぐいっと割って入ってきた深澤。
「打ち合わせ？」
「はい。今度僕が回る会社、Aが良く知ってるらしくて。色々教えてもらおうと。さっA行こっ」
釈然としない顔をしている係長を置いて深澤がわたしの背中を押す。
「あぶねー。油断も隙もねーわ」
「いや、わたしちゃんと断ろうとしてたよ？しかし、よくもまーあんなデマカセがするする口からでてくるよね〜」
「いや、ま、咄嗟の判断てやつよ。とりあえず真面目な事言っとけばOKっしょ。それにしてもあの人と仲良いの？」
「そりゃ直属の上司だから」
「ふ〜ん。。。ま、今日は俺が先約だからな。どこ行く？昔よくふたりで飲んでたとこまだある？」
「あー、まだあるんじゃない？わたしも最近行ってないからわかんないけど」
深澤の、隣を歩いてる。
隣を歩くことは今までもあったけど、今日はなんだか特別緊張する。
会社帰りにふたりで飲むなんて、深澤が東京に帰ってきて初めてだ。
「。。この店だっけ？」
「場所は、合ってる気がするけど」
何年か前にふたりで飲んだ記憶のある店は、その時とは違う店になっていた。
「ま、いいか。ここで笑」
「そうだね笑」
中に入ると当然店の雰囲気もメニューも変わっている。
わたしたちが離れていた同じ分だけ、街並みも時間が経って、移り変わっていく。
変化してゆくのは、止められない。
街も、人も。
でも、そんな中で、わたしの深澤への気持ちだけは変わらず、置いてけぼりで。
「どうしたの、ぼーっとして。ビールでいい？」
向かいの先に座った深澤が不思議そうにわたしを見る。
「。。あぁ。うん。ビールで」
深澤は、いつもと変わりないか。
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作者名：しろ
| 作成日時：2022年10月7日 22時
