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午後5時50分。
仕事を切り上げ、約束の喫茶店に向かう。
入り口から入ると全部の席が見渡せるほどの小さな喫茶店。
もうすでに彼女は来ていて、ドアの開いたベルの音に反応してこちらを向き、立ち上がってお辞儀をした。
「お待たせしました」
「いえ、わたしもさっき来たところです」
オーダーをとりに来た店員に、ホットコーヒーをふたつ注文する。
「。。。。」
「。。。。」
「。。。わたしにお話って。。？」
「あ。。。はい。。」
明らかに緊張したようなその様子は、今から話すことがいかにナイーブなことであるかを物語っていた。
「あの。。まず突然会社にお邪魔したりしてすいませんでした。お名前と辰哉と同じ会社だってことしかわからなくて、あんな方法を」
「あぁ。いえ、大丈夫です」
運ばれてきたコーヒーを見つめながら、彼女は続ける。
「わたし。。辰哉とは名古屋で知り合いました。。辰哉の会社の取引先の事務をしています。。」
「はい。。」
「あの。。単刀直入に言いますね」
そこで彼女は顔を上げ、わたしの顔を見る。
「辰哉のことを、振ってくれませんか」
「え？」
「辰哉のこと、はっきりと振って欲しいんです」
「。。。どういうことですか。。？」
「辰哉の東京転勤が決まったとき、別れようと言われました。東京に好きな人がいるから、と」
好きな人。。。
「わたしはお断りしました。別れるのは絶対に嫌だと」
初めて彼女の語気が強くなった。
「この間、東京の辰哉の家に泊まったとき、スマホを盗み見したんです。。LINEの頻繁なやりとりを見たとき、彼の言ってた好きな人はあなただと確信しました」
「。。。え？」
「Aさん、彼氏とか。。いないんですか？」
「いえ。。いません」
「そうですか。。辰哉があなたに振られれば、彼はわたしのところに戻ってくると思ってます。。どうか、彼を諦めさせてやってくれませんか？」
「ちょ、ちょっと待ってください。。言ってることが。。。。まず、深澤の，その好きな人っていうのがわたしだっていう確証どこにもないじゃないですか。それと、」
「確証はないですけど、わかるんです。辰哉のこと見てきたから、わかるんです」
わたしの言葉に割って入った彼女の表情は、必死そのものだった。
「Aさん。お願いします。わたしの元に辰哉が戻ってくるように、協力してもらえませんか？」
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作者名：しろ
| 作成日時：2022年10月7日 22時
