�� ページ19
深澤と彼女のふたりの姿を見て落ち込んで、
彼とは距離を置いた方がいいかも、なんて思っていたのに、
熱を出して心配してもらえば、また浮かれて。
ジェットコースターのような感情の上がり下がりに、
自分という人間がわからなくなる。
彼女がいる人を好きになるって、
それでもいいからって思ってたはずなのに、
どんなに優しくされても、どんなに一緒にいて楽しくても、
頭の片隅にその事がチラついて、
心の底から喜べる、なんてことはないんだなと思い知らされる。
そんな困難を感じているのに、
深澤への気持ちはますます強くなっているから不思議だ。
昼休みの終わり、デスクに戻っていた深澤を捕まえる。
「深澤、この前は本当にありがとう」
「おー。ちゃんと休めた？」
「うん。おかげさまでもうすっかりよくなった。あの時、わたしタクシー代も買い物も何にも払ってなくてごめん、いくらだった？」
「たいしてかかってないよ。第一俺が女性に財布出させると思う？笑」
「え〜？昔は飲みに行っても割り勘だったじゃん笑」
「それはAが同じ給料なんだから割り勘じゃないとおかしい、って頑固だったからだろ。懐かしいな笑」
「確かに。懐かしい笑」
すると深澤はすっとわたしの耳元で、
「あんまり大きな声じゃいえないけど俺、今回から給料上がったし」
突然耳元で囁かれてびっくりして飛び上がると、わたしの反応に笑いながら言う。
「だから、今回のことは気にすんなってこと」
深澤の香りが、近くに。
「わ、わかった。じゃせめて、これお礼。大した物じゃないけど。ホントありがとね」
抱きしめられたら、あんなふうに深澤の香りを近くで感じるんだな、と一瞬にして妄想してしまう。
名残惜しいな。でも、
「じゃ」
そう言って自分のデスクに戻ろうとすると、軽く腕を掴まれる。
「？どうしたの？」
「あ、いや。。前さ、話あるって言ったじゃん？それ、今日の夜とかどう？仕事終わりにメシでも」
「あぁ。。うん。いいよ」
「じゃ、またあとで」
確かに、ずっと気にはなってた。
あの、わたしが熱を出した日に深澤が話そうとしてたこと。
なんだろう。
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作者名：しろ
| 作成日時：2022年10月7日 22時
