雪のように美しい君に恋をしてしまった【キルア】其の二 (ページ14)

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ゾルディック家編 55 ページ14

「あ〜ゴトー? …うん。お、まじで？りょー、用事済ましたらすぐそっち向かうよ。うん、じゃ。」

ガチャンと無機質に置かれた受話器。
くるりと振り返ったキルアの顔色を察するに、
ゴンたちが敷地内にたどり着いたのだろう。

『ゴンたちが来たって？』
「あー…うん、らしーな。」

嬉しいさと、居心地の悪さを含んだ表情を見せるキルア。
やはりハンター試験であんな事があったあとだし、
気まずかったりするんだろうか。

『嬉しいんだ？』
「…ばッ…ちげーよ！嬉しいってか…
あいつらあの試しの門クリアしたんだぜ？
並大抵の努力じゃ無理だね、ふつーはさ。
だから面白いっつーか…

だんだんと薄くなる語尾に、ふふと笑みが溢れる。

「…笑うなよ。」
『嬉しいくせに〜』

うっせ。と拗ねる君を見て、心の底から安心した。
闇の世界で生きる君にはきっと
ゴンたちは眩しすぎるのだろう。

だけど私は君に
当たり前の幸せを感じてほしいって思ってるんだよ
キルア。

わたしには与えられない幸せを
ゴンたちなら君に与えてくれるから

「そいや、お前も試しの門クリアしたんだろ？
しかも五まで開いたって聞いたけどさ、
冗談抜きで言うけど…相当やべーぜ？」
『そうなの？』
「…ゴリラじゃん。」
『殴っていい？』

そんなやりとりを繰り返して
急にキルアがあ、と思い出したように口を開いた。

「やべ。俺オヤジに呼び出されてんだ。」
『行って来なよ。わたしここで待ってるから。』

わりーな、すぐ戻る。と言ってバタンと閉まる音を聞いてから
改めてキルアの部屋を見渡した。

ここで、キルアは育ったんだなぁ。

ふと先ほど摘んだチョコロボくんの箱が目に入った。

昔はお菓子なんて、無縁だったのに。

私の記憶の殆どは、空腹の辛さで埋め尽くされている。

どんなに凍える季節だって
かじかみ赤く腫れそぼった素足を擦り合わせながら
ダンボールの間に挟まって耐え忍んだ。

降り注ぐ暴力から逃れられた孤独の夜も
傷口から滲む血を舐めて痛みに耐え
それはいつしか、無数の消えない痕となった。
唯一無事だったのは、憎らしいほどの異質な顔だけ。

明日生きていられる確証もない夜が続き
気がつけば、夜眠ることが怖くなってしまって。

眠れば、きっと
わたしはこの世界から消えてしまうのだと。

過去を思い出しながら
キルアのベッドでゴロリと横になる。

鼻にかかるキルアの匂い。
私を包み込んでくれる、その暖かさに

いつのまにか意識を手放していた。