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からからと2人で笑いあって、貶しあって、久しぶりに"人"との会話を交わした気分だった。





「なぁ、おねーさんの名前は?」






ふと、力が抜けたような声で半間くんが言った。



これが、人との会話の力なのだろうか、もういいだろうかと、思ってしまう。





「……五島。」




「ちがう。名前のほう。それは苗字だろ。」




さっきまでのへらへらとした表情ではなく、暗い背景でも分かるくらい、私の瞳をとらえたまっすぐな表情。



名前くらい、






『プルルルルルッ…プルルルルルッ…』







口に出かけたものが、胃の中でドロドロと溶けていく。



まるで、「いいわけがないだろう」と叱るように、携帯の音が鳴り響いている。





「……出てくる。」





半間くんに背を向けてベランダを出る。ぴっと通話ボタンを押して、耳にあてる。



会ったこともないけど、絶対馬の合わないような奴の声を聞くのは苦痛だ。






「……どこ。」




『渋谷いつものビル。』




「は、?今から、」






『ブツッ……ツー……ツー……ツー……」





無機質な音が脳に流れる。







そうだ。私は、こっちの人間だ。





依頼者が今からと言うならば、





殺せと言うならば、









「おねーさん、架空請求詐欺のクズから?」






「……ちがう。もう寝よう。」






「あ?なんだよもうちょっと話そーぜ」






「うるさい早く寝ろ。そこに布団敷いたから。」






「は?急になんだよだりぃ、」








「聞こえないの?」







テーブルに置いてあったペンを手に取った。


そのまま片手で手首をまとめて、首にペンを押し当てる。







「知ってる?人はペン一本で死ぬの。殺せるの。」






ギリギリと手首を外そうとしてきた。それを逃さないように、骨の隙間に引っ掛けて力を込める。






「……だりぃ。」







諦めたようで、力を抜いて布団の上にどさりと倒れ込んだ。




「……良い子。」






半間くんを見下ろして、脱ぎっぱなしのジャケットに腕を通す。靴を2足、手袋を2枚持つ。




玄関にかけてある袋を手に取った。





扉を開けて、鍵を閉める。









「待ってんぞ。」









扉を閉める瞬間、かすかに聞こえた。






聞こえないフリをする。







がちゃりと鍵を閉めた。









この瞬間が、なによりも嫌いだ。

8.*表現注意→←6.



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作者名:すき子 | 作成日時:2021年8月14日 18時

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