9.半間side ページ11
がちゃ、と鍵が開く音がした。時計を見れば深夜の3時。
台所のほうから水の流れる音がする。だるい体を起こして布団の上で胡座をかく。
水の音が止めば、どすどすと不機嫌度が伺える足音がこちらに近づいてきて、ぼすっと布団の上に女の死体が転がった。どうやら俺の存在は忘れているらしい。
俺も合わせるように布団に寝転がる。
「おねーさんこんな朝方まで夜遊び?」
くつくつと喉を鳴らすと、女はうつ伏せの状態のままぶすくれた顔をこちらに向けた。
「……半間くんか。」
そう言いながら大きなため息をこぼして、布団の上にポケットナイフを放り投げた。俺じゃなかったら今頃布団は血の海だったということか。
「……つかれた。」
枕から唸るような声。ボサボサになった髪を梳きながら形のいい頭を撫でる。
「……血の匂いがすんなぁ、」
ぽつりと呟いた。
「……半間くんも同じ匂いだよ。人殺したことはないんだろうけど、死んだところは見たことあるでしょ。」
「……あるよ。興奮した。」
「……ふは、趣味が悪いなぁ。」
少しの沈黙が流れる。口を開いたのは俺だった。
「……なぁ、罰は受けてやっからこたえろよ。
人を殺すって、どんな気分なんだ?」
どーせこれから眠るんだ。詮索をして気絶されても変わらない。
ルール違反だって、こいつに手を下されて堕ちていくのは中々悪くないもんなんだ。
おねーさんは、目を閉じたまま言った。尋問に答えていくみたいに。
「色が消えていく気分。じゃあ、私も罰を受けるから質問。……大切な人が死んだのって、どんな気分なの?」
「色が消えて、おしいなっていう感じじゃね?」
「はは、同じだね。」
「……待ってんぞって言われんの、どんな気分だった?」
「そうだねぇ…………悪くない。」
「ひゃは、そりゃ良かったじゃんか。」
頭を撫でる手を包み込んで、自身の頬に擦り寄せた。いつかの猫みてぇで、愛嬌がある。
おねーさんはゆっくり目を開けて、俺を瞳でとらえた。
「……ルール違反だ。罰を執行する。
私のこと、抱きしめて寝ろ。離さないように。離したら指を2本折るから。」
「……ばはっ、こりゃ気絶より残酷な罰だなぁ。」
腕を広げて、おねーさんを抱きしめた。
こんな気分になったのは初めてで、俺はまだまだガキだと思い知らされる。
血の匂いが、俺たちを包み込んで溶けていく。
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作者名:すき子 | 作成日時:2021年8月14日 18時